前編の8月号からの続きとなりますが、金融政策だけで本当に物価を上げることはできるのか? という事について考えてみたいと思います。
アベノミクス
アベノミクスによって景況感は大きく変わりました。株価も堅調になり、2013年4~6月期の実質GDP成長率も年率換算で3・8%となり、先進国の中でも非常に高い伸びを示しました。大きく変わった点の一つとして、為替があります。リーマンショック後、2009年から1ドルが100円を割るようになり、昨年の夏頃には80円を割るほどまで円高が進行しましたが、それがわずか半年余りで100円近辺まで急激に戻るという大きな動きがありました。
リーマンショック以降、先進国を中心とした世界の中央銀行は、信用創造機能が失われ、資金の流れが止まってしまう事による経済活動の停滞を恐れ、大胆な金融緩和を行いました。その規模は2007年末と比べ2012年末には米国で約3・2倍、欧州で2・4倍にまで膨らみました。ところが日本では、既にゼロ金利政策を行っており、欧米におけるリーマンショックほどの信用収縮は見られなかったので、金融緩和に消極的な姿勢を崩しませんでした。その後欧州では国家の債務危機という大きな問題も発覚し世界的に通貨の信用も問題視された結果、日本の円が高くなってしまう現象が生まれてしまいました。債務危機から国債や通貨が暴落するのであれば、それだけを取って見れば日本もその可能性を否定できないにもかかわらずパラドックスが起こっていました。これを解消すべく大胆な金融緩和によるマネタリーベースの拡大を図ったことが、円が100円近辺に戻った大きな要素と言えるでしょう。
しかしながら、当初の目的である物価という面ではまだまだ課題が多いように考えられます。それは、円安によって大きく影響を受けるモノの値段があるからです。それは輸入価格であり、つまりは燃料価格です。
原油価格と物価
円安となれば輸入する価格が高くなるので、同じ量の燃料を輸入したとしても円における支払額は当然ながら上がります。燃料価格も物価の一部ですので、円安が物価に影響を与えることは明白です。日本は使用する燃料のほとんどを海外から輸入するためにその影響はとても大きいのは容易に想像できます。また、石油は化学製品等の原料にもなりますので、幅広く影響を与えると考えられるでしょう。ですから、金融政策によって円安となり、それが原油価格に影響を与え、最終的には物価に影響を与えるというシナリオがすんなりと進むように思えます。
しかし、原油価格が上がったことによる影響で日本に物価上昇が見られたのでしょうか?
リーマンショックが起こるまで世界は好景気に踊っていました。先進国は米国の個人消費をはじめ住宅バブルもあり、新興国ではBRICSと呼ばれる国々の台頭が見られ、特に中国では爆食と呼ばれるほど世界中の資源に触手を伸ばしていました。それらの影響を受け、原油先物の指標の一つであるWTIが2008年の最高値の140ドル近辺に付けるまで、2007年はじめ60ドルであった価格はどんどん上がっていきました。その後は一度調整を迎えますが現在もほとんど90ドルを割ること無く推移しています。
リーマンショックが起こるまで世界は好景気に踊っていました。先進国は米国の個人消費をはじめ住宅バブルもあり、新興国ではBRICSと呼ばれる国々の台頭が見られ、特に中国では爆食と呼ばれるほど世界中の資源に触手を伸ばしていました。それらの影響を受け、原油先物の指標の一つであるWTIが2008年の最高値の140ドル近辺に付けるまで、2007年はじめ60ドルであった価格はどんどん上がっていきました。その後は一度調整を迎えますが現在もほとんど90ドルを割ること無く推移しています。
本当に原油価格が物価に影響を与えるのであれば、オイルショックの時のように狂乱物価と呼ばれる大混乱を起こしそうですが、実際には起こりませんでした。日本の消費者物価指数(対前年比)の推移を見てみると、確かに2008年に+1・4%となりましたが、1999年以降はほぼマイナスで推移しておりデフレであったことが確認できます。ということは、たとえ円安になり原油価格が上昇したとしても、物価にはほとんど影響を与えないということなのでしょうか?
賃金がポイント
それでは何故リーマンショック前、原油価格が上がったにも関わらず物価にそれほど影響しなかったのでしょうか? 一つは原油価格が上がっても最終製品に価格転嫁しにくい状況であったことがあげられます。総務省の産業連関表等を参考に見てみると、石油や石炭、電気やガスといった業種では生産額に占める原油価格の割合が人件費と同じか数倍となります。一方で、輸送機械や電機産業は人件費の1/5~1/10と全く構造が違います。就業人数の多いサービス業においては、生産額に占める人件費比率が45%に対し、原油・石油製品の比率は4%にも至りません。光熱費はもちろん影響を受けるものの、最終製品に至る間で調整することで物価は上がりにくくなっているのです。消費者物価指数の中身を、全体を10000として数値化してみると、サービスが3641、食糧が2586であり、エネルギーが740、耐久消費財が547であるので、サービス業の価格が一番影響を与えることがわかります。先ほどの話と合わせると、石油価格の上昇が物価を押し上げるよりも、人件費の上昇の方が物価を上げる影響力があることがわかります。日本はバブル崩壊以降、企業は過大な設備と人員を削減するという方針のもとにリストラを進めてきました。その過程でグローバリズムという波が押し寄せ、国内の競争だけでなく海外も競争相手となってしまいました。国内は過当競争に陥り、価格競争となってしまったため新たな投資や雇用は生まれないまま時間が経ってしまいました。高齢化と少子化が同時に進む状況下で需要が不足するという予想がある以上、経営判断としては当然であると考えられますが、内部留保としてつみあがった金額は200兆円を超えていることを考えると、縮みすぎた結果自分が伸びるチャンスを減らしてきただけのようにも見えます。ここにこそメスが必要な
のではないでしょうか?
金融緩和によって物価に影響を与えることは出来るでしょう。しかし、これまで散々緩和してきた日本で今以上の効果は望めないかもしれません。ですから、物価を上げることを目標とせず、どこにお金が行きわたるべきかを見てからの議論が必要なのではないでしょうか。
のではないでしょうか?
金融緩和によって物価に影響を与えることは出来るでしょう。しかし、これまで散々緩和してきた日本で今以上の効果は望めないかもしれません。ですから、物価を上げることを目標とせず、どこにお金が行きわたるべきかを見てからの議論が必要なのではないでしょうか。
【最高投資責任者 草刈 貴弘】