「小説十八史略」
陳 舜臣著
講談社
30才台の頃、運用ビジネスにどんどんのめり込んでいくにつれ、あることについて確信めいたものが強まってきた。
なにかというと、経済なんて人々の毎日の生活が集まったもので、景気変動もマーケットの値動きも、すべて人間のなせる技ということだ。当り前といえば当り前のことなんだが、いろいろな経済現象を深く調べるほどに、「みずみずしい確信」となっていった。
みずみずしい確信って妙な表現だが、経済事象や投資環境の変化を生き物としてとらえると、実におもしろい。また、結構わかりやすい。なにしろ、すべて人間のなせる技なんだから。
そういうことなら、人間の勉強を徹底的にやってみようということになった。その最高の題材は、3,000人とか4,000人とかのそれぞれまったく違った個性の人物が登場するといわれる十八史略を置いて他にない。
前々から一度は読んでみたいと思っていたが、とんでもない大著である。まあいいか、この機会に挑戦してやろうと決めた。
それから、いくつかの十八史略に、体当たりしてやった。たしかに、読みごたえはあった。
どれほど人間の勉強ができたかは知れないが、経済や社会を観る眼がずいぶんと複層的になったのはたしか。それと、したたかな判断ができるようになったかも。
なにか大事件が発生して世界的に株価が暴落しているような時でも、「これで世の中が終るってわけでもないわな」と、冷静に対応できるのは大きい。みなが売り逃げに走っている中を、選り取り見取りの買いを入れられるのだから。