成長の原動力
草刈 人ありきの経営やポスシステムを導入しない小売等、不合理とも言われる経営をなぜ続けられるのか、そして今後どう差別化を図るのかについて教えてください。
大薗 従業員が幸せになるための条件は頑張ったら頑張っただけそれが正しく評価され自分の給与に反映されることだと考えています。ですから従業員の皆のお客様を喜ばせる為の能力や行動実績を正しく評価するための人事考課制度がなくてはなりません。ここで重要なのは売上や利益といった数字で評価しないことです。売上や利益は本人の努力ではどうしようもない要素がほとんどを占めるはずです。例えばオープンして10年たった店と2年目の店を比べると2年目の店の売上の伸びの方が高いに決まっていますし、近くに競合店が出店してきたら、売上の伸びは鈍るでしょう。そんな個人ではどうしようもない数字で評価するから、最近「能力主義の弊害」なんて言葉がでてきたのだと思いますよ。評価すべきはあくまでその人が売り場でお客様を喜ばすためにとってきた行動実績です。当社では独自に作り上げた一人当たり250項目にも及ぶ人事評価項目とそれを給与に反映させる仕組みが確立されています。それらの評価項目を当社の全員が出来るようになれば、益々お客様から喜ばれ、売上が向上し従業員に還元される給与原資が増えるのです。当社の人事考課制度はお客様、従業員、取引先、株主、全てのステークホルダーを幸せにする制度なのです。
草刈 他社には真似できない仕組みの違いは「人をきちんと評価し成長させることで、お客様を喜ばせる。それが会社として成長できる原動力になっている」ということですね。だから会社を評価するなら店舗を見て欲しいという事でしょうか。
大薗 そうですね、働いている社員達の表情を見て欲しいです。当社のビジネスモデルは取扱アイテム数や楽しい売り場づくりに注目されてしまいがちですが、その神髄は一言で言うと全てのステークホルダーを幸せにするビジネスモデルであると考えています。社長の私は、売り場の第一線でいつもお客様と接している訳ではありません。お客様を幸せに出来るのは売り場の従業員の一人一人であり、私はそんなお客様の為に頑張っている従業員の為に全力投球し、皆の喜びを自分の幸せにする。従業員の皆は目の前のお客様の為に全力投球し、お客様の喜びを自分の幸せにする。結果としてハンズマンはその地域に存在する企業としての存在意義をもつことになります。 一方で企業を永久に存続させる為の利益を生み出す仕組みも重要なことだと考えています。当社は品揃えを決めるのは売り手ではなく買い手のお客様であるという考えのもと、住まいと暮らしに関する商品であれば売り場でお客様の要望を聞き、全てを品揃えしていくという方針ですので、例えば1年に1個しか売れない商品も導入されることになります。したがって、私達は適正な在庫を維持する為のITを駆使したシステムを確立しています。お客様と従業員との接点、商品と従業員との接点は限りなくアナログで運営し、一方の商品管理はITを駆使し限りなくデジタルで運営する。つまり、アナログかデジタルかを判断する基準は、人か物かの区別です。このシステムには自信があります。
草刈 ソフトな部分は他社でも真似ができるはず、でもできないのはやはり「人を育てる」ところではないでしょうか。一店舗が一つの個人商店のようですね。普通はチェーン店があると在庫を一括管理して中央で集約し、均一化するマニュアルがあるものですが、御社はそうではないことが他店との最大の差別化であり、それを実行するための人材を教育しているからこそ差がついてきたのではないでしょうか。
大薗 「今目の前にいるお客様に喜んでもらえることを考え実践しよう、自分がお客様だったら嬉しいと思うことを考えすぐ実行しよう」というのが接客の基本方針。マニュアルはまったくないのです。マニュアルの接客でお客様に感動してもらえることは一つとしてありません。自分にしか出来ないことを、大変だけれども、面倒だけれども、それを実践するからこそお客様に感動してもらえます。「今日はあなたがいてくれて良かった」と喜ぶお客様の笑顔が見たいから、その時に自分自身が感じる充実感を知っているからこそ、皆は頑張るのです。そこに教育なんてものは必要ありません。必要なのはそこに従業員の皆がお客様のために自分で考え行動する環境があるかということであって、社長の私がそういう環境を全力で提供してあげられているかが重要なことだと思います。