ついに米国が金融緩和からの脱却に向けて動き出しそうです。
今後の株式市場について考えを述べてみます。
2015年は世界の金融市場にとって大きな変わり目となるでしょう。リーマンショックに対応する為に異例の措置を取り続け、6年間も金融緩和を行ってきた米国がついにその方向を変える時が来るのです。その反動は誰にとっても未知の領域です。だからこそ周到に用意しなければなりません。ファンド仲間の皆さまは、急な入用が無いようであればファンドを保有し続けていただきたいと思います。現金化はファンドの中でしっかり行い、今年は現金比率を30%程度まで引き上げたいと思います。
何故現金比率を高めるかというと株式市場における調整が起こると考えているからです。その理由は、①原油価格下落による産油国の打撃とその影響、②米国金利引き上げによる混乱、③円キャリートレード巻き戻しによる円高の3つが重なるからです。世界的に金融市場は調整局面に向かうでしょう。ということは我々長期投資家にとって絶好の買い場となりますからその時に優良企業へ集中的に投資をする為、現金を保有しておきたいというのが私の考えです。
中身を詳しく解説すると、原油価格は産油国の経常収支に大きく影響を与えます。今回は特にブラジルに打撃を与える懸念があります。ブラジルの国営石油会社であるペトロブラスにとっては、原油価格が高値で推移する前提で深海油田へ巨額投資を行い、その債務が08年の3倍の1980億ドル(約23兆円)にも膨らんでいます。価格下落に加えて生産量も頭打ちになっており、さらに会計上の問題を抱え会計事務所と対立し決算が発表出来ていないという事態にもなりました(2014年3Q)。ブラジル自体も経常収支の赤字が続いており、ブラジル経済に大きな打撃を与えかねません。しかも外銀のブラジル向け貸し出しはスペインが4割を占めておりユーロ圏への飛び火には注意が必要です。これにより新興国への投資資金が米国や先進国へと巻き戻されることで新興国・資源国からの資金流出となりそれらの通貨・株式の調整が起こると考えられます。
米国金利引き上げは、米国株式に大きく影響すると考えられます。S&P500に入っている多くの企業は低い金利の時に借り入れを行い、それを原資に自社株買いを行って株数を減らしてEPS(一株当たりの純利益)を押し上げて株価の上昇を促しています。しかし会社全体の純利益とEPSの成長率を比べると、EPSの成長率がはるかに高く会社全体では減益の企業すらあります。これは自社株買いによって株数を減らすことで達成しているので、金利上昇はマイナスに働きます。失業率は低くなりましたが、賃金の上昇が鈍っているようですので、金利上昇は住宅や車の販売といった個人消費に影響を与える為、株価は調整すると思われます。
円キャリートレードの巻き戻しによる円高については、前述のような新興国・資源国・米国の調整によって発生すると考えます。『リスクオフで円高』という言葉で片付けられそうですが、本質的には金利が非常に低い日本で円を調達しそれを外貨に換えて投機していたものが、まさに巻き戻されるのです。12年秋の円安が進行したのと同時期に邦銀のケイマン諸島向け貸出が増え2年で960億ドル(約11兆円)増えていることがBIS統計から読み取れます。これらのほとんどはドルに変換され世界中の債券や株式に姿を変えたと思われます。
これまでの流れを読んでいるとだんだん不安になってしまいますが、前回の長期投資だよりで示している通り時代は繰り返しており、形やステージは違えど人は同じことを繰り返しているのです。現在の状況を98
年のアジア通貨危機に似た状況だと言っている人も多くいます。当時とは環境自体が変わっていますし、考えられないほど経済は複雑に絡み合っています。それが想像しなかった問題として出てくることによって不安が不安を呼んでしまう展開となると考えられます。
一方で、日本の経済や株式市場に対しては悲観一色ではありません。何故ならば日本銀行は金融緩和を続けることを宣言しています。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も日本株式への投資比率を高めることを事実上公表しています。共済年金との一元化も加味すればより巨額が動きます。市場が混乱した時に買い出動できれば他国よりも底堅い動きになる可能性が十分に考えられます。年初にそぐわない大胆な予想かもしれませんが、そのような時でもしっかり運用することでファンド仲間の皆様からの信頼に応えることを誓い、新年の挨拶と代えさせていただきたいと思います。
【最高投資責任者 兼 ファンドマネージャー 草刈 貴弘】