パッケージ基板向け銅表面処理剤で世界トップシェアを誇る同社
コアとなる技術を世の中の電子機器の流れにどう活かすのでしょうか
草刈(以下草) BtoB(ビジネスtoビジネス)の企業は私たちの普段の生活では目にふれない場所で仕事をされています。初めて御社を知る方の為に、まずはメインのビジネスについて教えていただけますか?
前田(以下前) 当社はスマートフォンやテレビ、パソコン等に使われる電子基板の製造に必要な工業薬品を開発し、製造販売しています。金属の表面をエッチング処理するための薬品や、形状を整えて樹脂との密着性を高めるなどの薬品をコア技術として世界中の基板メーカーにご使用いただいております。スマートフォンやパソコンの中の電子基板やモジュールを作る際にかなりの確率で使われているので、少量ですが皆さんがご利用のデジタル製品にはほぼ当社の製品が使われているはずです。
草 つまり、私達の生活は御社の薬品があってこそ成り立っていると言えるのですね。製品サイクルの激しいデジタル製品の業界で生き残るには高い開発力が必須ですので、研究開発型の企業は顧客のニーズに応えるだけでなく、色々なアイデアの種を持っていることが重要だと思います。御社は、現在まだ市場が存在しない分野においても種まきをしていると私達は認識していますが、需要を先回りする網の張り方の秘訣というのはありますか?
前 現状把握が大切です。技術力の高い材料メーカー、その先のセットメーカーがどのような方針を公開されているか、どのような考えを持っているかなどを調査します。5年先10年先がどうなるか、マクロからミクロまでエンジニアマーケッターと意見交換し方向性を定める。これは日々の努力の積み重ねだと思っています。当社のような小さな企業は圧倒的に面白いものを作らなければなりません。世の中の動きからシーズを育て、ニーズを追いかける。これを繰り返す地味で忍耐力のいる作業です。
草 しかし研究開発の種と世の中の需要に差が出てしまった場合はどうでしょうか。「これはいけそうだ」と思ったシーズに対して、顧客からのニーズが全く違う場合もあるのではないでしょうか。そういった場合、それまでの投資、そして時間が無駄に見えてしまいます。
前 たとえば7~8年前、当社ではパソコンの延長線上でテレビ、携帯とカーナビを融合させたような新たな高付加価値デバイスが生まれると予想していたので、そこを狙った薬品の開発を進めました。ところが世の中の環境がパソコンからより汎用性の高いスマートフォンへと想定を超えるスピードで変化し、これまでのパソコン向けとは違う需要に変化したことで収益が一時的に厳しくなりましたが、新たなニーズに適応していくことで収益を上げていきました。ただの失敗に終わらせるのではなく、必ず次に活かすことが重要だと考えています。実際に以前は使われなかったものでも時代が変わって必要になったケースも存在します。CZの需要は安定していますが、それだけに頼るのではなく一歩先を行く薬品の開発も必要です。我々のコアとなっている技術は、金属と樹脂の密着、配線パターンを綺麗にエッチングするという二つの技術です。武器となる技術をどのように市場に当てはめていくのか検討します。これらの技術はあまり汎用性がありませんが、モノがより小さく軽量化する中では不可欠な要素です。電子基板の領域では、主流な金属は銅であり、特に掘り下げている技術なので今後も応用できるでしょう。当社としてはもう少しシーズの掘り起し範囲を広げて電子基板に限らず挑戦する必要があります。銅以外の金属表面処理で全く別の市場を開拓する、これが今後の大きな課題です。