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「井上 成美」
阿川 弘之著
新潮文庫

 お客様の資金をお預かりしてポートフォリオ運用するのは、大軍を動員する戦争と似かよった面が多い。そう考えて一時期、戦史や戦略論といったものを集中的に勉強した。

 過去の戦法や戦術を学んでいく中で浮上してきたのが、過去の成功体験を引きずって破れ去っていたケースが意外と多いことだ。敵に勝つためには力で勝るのが一番だが、それだけではない。あらゆる角度から創意工夫を重ね、新技術を積極的に導入したりするのは当然といえば当然である。

 たとえば、日本海軍はマレー沖の戦いで英軍が誇る戦艦プリンス・オブ・ウェールズなどを撃沈させた。世界の戦史に残る、航空機の時代の幕開けである。

img_chairman.jpg  ところが、日本海軍は日露戦争以来の大艦巨砲主義に凝り固まったまま。日本海海戦でバルチック艦隊を撃破してから数10年を経ているし、その間に航空機の登場など驚くほどのスピードで技術革新は進んでいた。そして、日本自身が航空機の威力を遺憾なく証明してみせた。

 それなのに、大艦巨砲主義の伝統から抜け出せないまま敗戦まで突っ走ってしまった。どうしてそうなっていったのか、いろいろ勉強させられた。  そんな海軍内にも、過去の成功体験にとらわれない開明派というか良識派もごく少数いた。その一人が本書の井上大将である。

 いま主流となっている大きな勢いに流されることなく、時代を先見し行動する少数派を貫くというのは、われわれの長期投資につながるものがある。

 

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