「坂の上の雲」
司馬 遼太郎著
文春文庫
ずいぶん昔に「龍馬が行く」を読んだのが、司馬史観にのめり込むきっかけとなった。以来、数多くの司馬本を読んでいる。
そんな中、「坂の上の雲」を手にした時のことを、いまでもはっきり覚えている。それは1972年か73年のことだった。
当時、スイスはジュネーブで1日16~17時間、土曜も日曜もなしでアナリスト稼業に没頭していた。唯一の楽しみで息抜きは、本を読みながらの夕食。といっても、レストランへ出かけてあちら風に2時間3時間ムダにするのは超もったいない。
そこで、買い置きしていたワインとパンにチーズ、そして食後のオレンジが毎日の夕食メニューとなった。ジュネーブはワインが安く手に入ったおかげで、ずいぶん多くのワインを楽しめた。
2時間ほど読むと眠気に襲われてベットに入るのが日課だった。ところが、「坂の上の雲」を読みはじめたら、もう止まらない。
たしか全8冊だったと思うが、毎晩1冊ずつ読み終えていった。眠気などまったく感じない。
夜空が白んできた頃、ようやく1冊を読み終える。はっと気がついたら、ほとんど徹夜していた。ヤバイ、仕事に出かけなければ。
結局、8日間で大作「坂の上の雲」を読破してしまった。それほどに集中して読み進んだ わけだ。
明治時代らしい登場人物の覚悟と昴揚感がたまらなかった。なにしろ、自分自身が白人社会における唯一の有色人種として、毎日が臨戦モードにあったから。