大豆の商品特性
大豆の起源は非常に古く、4,000年以上前から栽培が始まったといわれており、中国では2,600年前の書物に大豆が登場しています。「五穀豊穣」の稲、麦、粟、小豆、大豆のひとつに挙げられ、田んぼの畔で栽培されてきました。
大豆はたんぱく質35%、油分19%、炭水化物28%、灰分5%が含まれ、枝豆、豆腐、豆乳やサプリメントなど食品として余すところなく利用されています。しかし自給率は低く、大豆消費量の75%を米国から輸入しています。世界では大豆は搾油によるサラダ油と副産物の大豆ミール(大豆粕)が飼料に利用されています。
大豆生産一位の米国では、第二次世界大戦時に輸入が止まった食用油の原料として急速に大豆栽培が広まり、その後は世界的な人口増に伴う食肉需要の増加に伴って高たんぱくの大豆ミールが注目され大豆生産が急拡大しました。1973年の世界的な不作の時には米国が輸出禁止措置を取ったため、米国から消費量の九割を輸入していた日本の大豆食品業界は大混乱に陥り、産地の多様性に迫られました。その後の20年間でブラジル・アルゼンチンが大豆の一大産地となりました。
大豆1ブッシェル(27キロ)を搾油すると、大豆油が5キロ、大豆ミールが20キロ、皮と残渣が約2キロ生産されます。大豆油の市況は2008年の北京オリンピックの中国爆食をピークに低下傾向にありますが、飼料需要の増大は続き大豆ミールの価格は上昇を続けています。
下図は米国の過去15年間の大豆搾油による油と大豆ミールの収益構成比率の推移です。2010年代から大豆ミールの収益構成比が上昇しています。この結果、搾油業は副産物の大豆ミール価格の上昇で収益マージンがかつてない程に上昇しています。
消費はポークとチキンに
穀物需要の約5割は「食用」で、人口増と比例し2割は「バイオ燃料などの工業用」、3割が「飼料用」と言われています。工業用は非可食植物に代わっていくため、今後は飼料用が穀物事業の収益性を左右するといわれています。
米国農務省調査によれば、米国以外の先進国と新興国で食肉消費が増加し、肉の種類では多くの国でビーフが減少し、ポークやチキンの消費が増加しています。健康志向でホワイトミートと呼ばれる鶏肉の需要が欧米で増加しているためです。
大豆ミールは、豚やブロイラーなどの中小家畜の飼育に高タンパク源として配合されています。また、中国やベトナムでは食肉1㎏当たりの飼料消費量が10年前と比較して増加しており、これは配合飼料を利用する工業型の畜産が増えているためです。中国の景気減速リスクが話題になっていますが、中国都市部の雇用者数は増加しており、基礎的消費は増加しています。長期では所得水準も確実に増加していくので、食糧に関わる農業・畜産は経営の効率化と収率向上に関わるビジネスがますます重要です。
また、TPP締結で関税が撤廃された場合、普及品では外国産と国内産の差別化が無くなり、成熟消費国ではブランドミートのように食の二極化が進んでいきます。
フードチェーンの効率化技術
食糧問題は2005年に環境学者のレスター・R・ブラウン氏が、米国穀物地帯の地下水位の低下や天候不順で世界の穀物備蓄量が低下し食糧危機が来ることを警告して以来語られている課題です。干ばつや天候不順は起きていますが、米国をはじめとする穀物生産国では作付面積や単収が徐々に伸びて供給が増加し、穀物在庫率は1973年のような危機的水準に低下したことはありません。
環境に配慮した農薬や生育状況のIT管理、畜産物の飼育効率を高める飼料設計、トレーサビリティなど、今後もフードサプライチェーンが拡大していく中で必要となる要素は多数発生すると思われますので、そのような技術を得意とする企業の調査を継続していきます。
【ファンドアドバイザー 歌代 洋子】