小説「日本興業銀行」
高杉 良著
講談社文庫
長期投資でより良い世の中をつくっていこうよと提唱しているが、もともと天下国家の議論が大好き。それもあってか、ひと昔前80年代の話になるが、日本興業銀行の人達とは意気が合い、うちのオフィスでよく飲み、よく語り合った。
ワインや酒を片手に、日本の政治のありようやら、社会や経済をどのように変えていくかを、5~8人ほどで侃々諤々とやるわけだ。いつの間にか中央官庁や日銀の若手も加わったりで、月3~4回のミーティングにはやたら勢いがあった。
本書を手にした時も、「さもありなん」を随所に読み取れた。当時の興銀マンと身近に接していたから、さもありなんは実感として心に響いたものだ。
もとは国営といってもいいような長期信用銀行だったが、若手の興銀マン達とは投資銀行のイメージを語り合った。90年代に一大成長を遂げたゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーも、まだ小さなオペレーションだった頃にだ。
あの興銀も消え去ったし、口に泡して天下国家を語っていた興銀マン達も、いまはいない。時代の変遷とともに、古き良き企業文化や伝統は、過去のものとなっていくのが世の常なのか。
それはおかしい。時代や世相がどう変わろうと、生活者にとって大事と思える企業の経営目線が低くなってはいけない。否、時代そのものを先取りして、より目線を高くしていってくれてこそ、われわれ長期投資家が心から応援したくなる企業というもの。