粗にして野だが卑ではない
城山 三郎著
文春文庫
長期投資で、より良い世の中をつくっていこう、それには投信だ。そう考えがまとまるまで大して時間はかからなかった。
ずっとプライベートバンキングの仕事をしてきて、長期投資の良さと凄みといったものは実体験していた。
その長期投資を一般生活者の間に広めていけば、個々人の経済的自立をベースとして、その先の心豊かな社会づくりも見えてくるだろう。そのためには、なんといっても投信をやらねばということで、さわかみファンド設定に漕ぎつけた。
自分の考えも方向もすっきりしていた。ただ、他にもいろいろな社会的活動や事業はあるはず。そこからも学ばせてもらおうと、多くの書物を読み漁った。
その中で、すごいなあと感銘を受けたひとつが本書であり、石田禮助翁の「パブリック・サービス」精神である。現役の頃は戦前の三井物産で大暴れし、社内でも最高位にまでのぼりつめた。
現役を退いてからは、「人生の晩年はパブリック・サービスに努めるべし」に徹した。国鉄監査委員そして初代委員長、さらには国鉄総裁としての気骨ある働きぶりには圧倒される。
おもしろいのは、米国での体験で「ワンダラー・マン」たちから強く印象を受けたこと。功成り名遂げた米国人が政府にたのまれたり、社会事業に手を貸したりする。公職として給与が出ても、形式的に1ドル受け取るだけで、パブリック・サービスにいそしむ。
まさに、カッコ好い生き方である。