ファンド仲間の皆さま 2016.04.28

人生を楽しむ力

#ファンド仲間

マゼラン海峡南端の「フエゴ島」をゴールに向けて進む日本チーム。

「生きて帰ろう。」

　氷河と嵐の大地を612km、4人1組（女性一人を含む）で人力踏破する。今年2月、南米パタゴニアで世界一冒険的なアドベンチャーレースを2位でゴールしたのは日本チームだった。リーダーの田中さんは言う。「個人の資質だけでは勝てない。生死の境で喧嘩なんかしてる場合じゃない。団結しないと、生きて帰れない。」

　アドベンチャーレーサーとして20年、田中さんが脱サラしてプロに転じた理由は意外にも「協調性の欠如による悔しさ。」だった。

勝算よりワクワク

　前職は化学会社の研究員、一人没頭する職が性に合った。趣味で参加した国内山岳レース優勝を機にアドベンチャーレースの国際大会出場。完走するも、悔しかった。「チームの雰囲気は最悪。正しいことを言って、相手が言い返してこなければ文句ないなって。人付き合いが苦手な性格を言い訳してきたツケだった。」8年勤めた会社を辞め、アドベンチャーレースに全てをかける。「外国選手が無名でアジア人の私にも紳士的に接してくれた。人間としてもカッコいい、自分が成長できる場所はここしかない。」と。「勝算はなかった。行動する時は成功のイメージだけ。いつもワクワクしている。」

方法は無限

　群馬県みなかみ町に移って2年、田中さんの貯金は底をつく。家計は極貧でも「楽しかった。山菜を摘んだり、近所でパンの耳や野菜の皮をもらったり、毎日が必死。とにかくレースに出て結果を出したかった。海洋冒険家白石康次郎さん等、夢を実現するフリーランスの生き様にも影響を受けた。生半可な熱意では人も企業も動かない。方法は無限、諦めなければ道が拓ける。」

　次第に農家の方は米や野菜を、競技用自転車メーカーはマウンテンバイクを支援してくれるように。「人とのつながりがあれば、絶対に生きていける。」身近な人たちからの信頼が、世界で戦う自信になった。

自分を変える強さ

　「レース結果に最も影響を与えるのはチームワークだ。」と断言する田中さん、忘れられない言葉がある。「田中さんは人のやる気を無くさせる天才だ。」当時の女性メンバーに言われ、堪えた。「正論で人の心は動かない。互いを信頼・尊敬し、支え合うチームづくりがリーダーの役割だと気付いた。それには、私自身が変わらなくてはいけなかった。」

　そして「自分を変える力」こそアドベンチャーレースで求められる強さだった。「一見己に非がなくても、本当に自分に責任がないのか？自分に何かできないのか？と考えない限り、問題は解決しない。素直に己の弱さと向き合い、謙虚に自分を変える。それは優しいだけではできない。強い人間でないと。」

　南米のレース中盤、田中さんは顔から転倒し鼻骨を骨折。チームで話し合いレース続行を希望。大会運営者は「自分たちが何を言っているか解かっているのか？」と事態を憂慮した。しかし「私たちは、私たち自身で仲間の身体を守り切る。」と揺るぎないチームの決意に運営サイドは続行を了承。そして掴んだ2位。「レースは結果だけじゃない。日本人らしい戦い方を示したかった。転んで止めたら普通。困難をどう乗り越えるか、日本チームの熱い思いを世界に示したかった。」

生きる力

　以前は「人様が汗水を流したお金をレースに使って良いのか？」と支援金に罪悪感があった田中さん、応援者の声でお金に対する考え方が変わった。「レース後、勇気をもらった、と喜ばれた。私たちの経験を社会に還元すること、そのための支援金だと気付いた。お金は社会に生み出す価値の対価。さわかみファンドを始めたのも、自分だけの金儲けではない、社会でお金を活かす財産づくりだから。私は草を食ってでも生きていけますが、子供が生きる力を身につけるためには最低限のお金が必要です。」

　次世代に伝えたい生きる力とは？「人生を楽しむ力です。ちゃぶ台を囲んだ家族の食事、時にはケンカ。何気ない日常をしあわせに感じる力。そして、逆境を楽しむ力。世界の大会で日本人は一番我慢強い。しかし、もっと強いのは我慢ではなく困難を楽しもうとする外国人チーム。熊の足跡に怯えるどころか、Hello, bear!と笑顔で突き進んでいく。限界は自分が決めた安全領域。やってやるぜ！と苦境ほど仲間と笑顔で乗り越える。その先には必ず新しい世界が待っている。人生を、世の中をおもしろく。そんな輪を広げたい。」

　不確かな未来だからこそ、挑み楽しむことで湧いてくる力がある。投資先企業、そしてファンド仲間の皆さまとともに長期投資でおもしろい世の中をつくって参りましょう！

【直販部　佐藤紘史】