株価変動にあわてない
2016年の株式市場は、荒い値動きが続いています。年初から世界的な株安となり、2月12日には日経平均株価も昨年のピークから28%下落しました。されど、ここにきて上昇と下落を繰り返しています。
株式市場は経済の先行きを読むと言われますが、実体経済以上に激しく浮き沈みします。過去10年の日経平均株価の年間最高値と最安値の変動率は、20%~50%(筆者測定)。今のところ今年の変動もこの範囲内です。そもそも株価は、このくらいは上下動するものです。一方、GDPは前年比で10%も増減したことはありません。個別企業の収益が30%も変化することも極めてまれです。
なぜ、株価はこんなにも大きく変動するのでしょうか?それは付和雷同する機関投資家が多いからと言われています。加えて、海外のヘッジファンドはその売買動向につけこむ機会を狙っています。それに、超高速取引やアルゴリズムが同じ方向へ判断を下せば変動幅が助長されます。しかしながら、それらすべてが株式市場であり、流動性が生まれているのも事実です。
世界の株式市場は、リーマンショック以降、右肩上がりで8年近く上昇しています。そろそろ下げ局面が来てもおかしくないかもしれません。一方、これまでの暴落の前にはバブル的急上昇がありましたが、それはまだ起こっていません。さらに、日本初のマイナス金利の影響や消費増税先送り観測など、先の読みにくい市場環境が続きます。
もともと人の心理には新しい決断を避け、現状維持を望む作用が働いているようです。でも、株価が変動して大きな評価損益が生じると、買おうか売ろうか、私たち個人投資家の心は揺れ動きます。しかし株価が乱高下してもあわてず、自分の売買ルールを守って投資すべきだと考えます。
企業価値に注目する
このように株価が大きく変動しても、さわかみファンドはゆっくりと落ち着いて運用調査をしています。
年初から株価は急落しましたが、日本企業の業績はそれほど悪くはありません。製造業は予想外の円高を主因に減額修正を余儀なくされましたが、コスト削減など内部努力で増益を維持。非製造業は原油安と好調な内需を背景に底堅く推移しています。主要上場企業の昨年度の業績を集計すると3年連続で過去最高益を更新する見込みです。
そして企業の配当金は、増える傾向が続いています。預金金利はほぼゼロですが、現在の株価水準で配当利回りが3%を超える企業も少なくありません。なおかつ、大型の自社株買いを表明する企業も目立ちます。これは、自社の実力を熟知する経営者から投資家へのメッセージではないでしょうか。事業で得た利益はきちんと配当で還元する。自社の株価が安いと判断した時は自ら買う。これら増配も自社株買いも将来の業績に自信がなければできないはずです。
もちろん企業の利益は株主に還元されるだけでなく、次の事業展開へ再投資されています。大規模リコールにも動揺しなかった自動車メーカーは、競合に先駆けて自動運転や車のIT化などの超最先端技術に取り組んでいます。アップルに翳りが出ることを見越した電子部品メーカーは、機密情報の管理を徹底して中国の携帯電話製造企業に売り込みを図っています。また、炭素繊維の成功に甘えず、高い効果と少ない副作用の見込める高分子医薬品を研究開発している化学企業があります。この他にもグローバル市場を開拓するため、2017年新卒採用計画では多くの企業が大幅に技術者の採用を増やしています。
このように、投資家が株価変動に右往左往している間も、経営者や社員は前向きな企業活動を続けています。株式市場で評価される企業の価値とは、私たち消費者のニーズにどれだけ誠実に応えるかにほかなりません。個々の差はありますが、直近のわずか数か月間の株価変動ほど、その企業価値が著しく変化したとは思われません。長期的に見れば株価は、いずれその企業の本質的価値に見合った価額に落ち着くのが原理原則だと思います。
リーマンショック後のある説明会で「細かいことばかり聞くな。業績を上げると言ったら上げるんだ」と景気低迷で懐疑的なアナリスト達を叱りつけた経営者がいました。そして同業他社が投資を抑制する中、その企業はリストラを行わず、実質的な設備投資や研究開発費も減らしませんでした。暫くその株価は下がり続けましたが、然る後最高益を出して、市場が回復するなかで力強く押し上がりました。次なる株式市場の主役は、先行きが不透明な時こそリスクを覚悟で前へ一歩踏み出している企業です。
青田に風渡るこの時期、弊社の運用調査部は各社の決算説明会を精力的にまわっています。株価変動に惑わされることなく、実りの秋を期待できる企業を精査しています。
【アナリスト 村上 康弘】