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最期の一口
 
 「亡くなった夫のおかげで今の私がいます。」  旦那様からさわかみファンドを相続手続き中、木下さんは静かに仰った。  「子育てが落ち着き専業主婦だった私が働きたいと申し出た時、また厚生労働省から介護保険制度の創設に協力を呼びかけられた時、常に背中を押してくれたのが夫でした。  今は臨床栄養師として介護施設の運営に携わっています。利用者が人生のラストステージで尊厳をもって生きられるよう、点滴ではなく"最期の一口"を味わえる介護を目指しています。」
 
 
選ばれる時代
 
 木下さんが勤務する特別養護老人ホームは千葉県八千代市で開設して35年。デイサービスの利用や終の棲家として入所される方は地元から北海道・九州など各地に広がっている。
 

201606_customer2.jpg 「介護施設は選ばれる時代になりました。」と木下さん。  「2000年の介護保険法施行以前、利用者に提供する施設やサービスを決めていたのは自治体です。しかし、今は利用者本人が選べます。食事代等をご負担いただくのも本人。だから利用者はゲストです。栄養管理も大事ですが、食でゲストを幸せにしたい。家族と離れて暮らしたけれど、ここで最期を迎えられて良かったわと安心していただける食事をお届けしたい。」

 
 
 
やわらぎ膳
 
  本当に安心・安全な食事とは?  以前は病院で床ずれや糖尿病などにも効く治療食を研究していた木下さんが開発したのが「やわらぎ膳」だ。  「例えば、食べ物を咀嚼する力がなくてもお刺身が一番好きな方には、舌に置けばスッと飲み込めるように手で魚を叩く。野菜であれば、すりおろして小鉢にする。同様にデザートも作る。召し上がっていただく時には『○○さんの好きなマグロのお刺身ですよ。』と料理をご案内する。言葉を出されなくても、皆さまのゴックンから喜んでいただいていることが伝わってくる。私たちも違和感があったらゴックンできませんよね?」  余命いくばくもない最期のお誕生日会にご家族や施設の担当職員からオーダー頂くやわらぎ膳は、施設での看取りに込めた木下さんの思いをカタチにしたものでもある。
 
 
あきらめない介護食
 
 「できれば家族と最期を迎えたい、住み馴れた郷里に帰りたいと誰もが思う。だから、人として生まれ、認められ、決して一人ぼっちじゃないと実感していただきたい。一緒に働くフィリピン人スタッフのホスピタリティに学ぶことがあります。結局は人と人、ハート to ハート。おむつを交換したり、笑顔でハグをしたり利用者が一人でできないことを気持ちよくサポートする。ウェルカム、感謝でしょう。認知症で怒りっぽい方が入れば、こちらが怒られ上手になる。感情を出してくれるから、何を考えているかが分かる。何があってもあきらめない。介護者があきらめるっていうのは、利用者に生きていくことをあきらめなさいってことですから。」  海外視察等で現地企業による施設への寄付文化が定着している国など、税金頼みの日本が学ぶ点がある一方、人間の尊厳を支える食についてはリードしているという。  「どう延命するかより、どう人生を全うするか。お母さんのおっぱいを自分の口から飲んで生まれ育つ。だから、最期に召し上がる一口、仮にそれが糖水であったとしても貴重。人生の灯を看取るこの施設で大切にしていることです。」   今まさに「食」で介護の先端を走る木下さんを、どんな時も応援し続けたのが旦那様だ。

 
 

知恵と未来に限界はない
 
  「自宅新築時に巡ってきた海外研修のチャンスを家計を理由に諦めようとしたとき、夫に声をかけられました。『今日、研修費を振り込んでおいたよ。管理栄養士として日本を代表する君への投資だから。』と。中東出張から戻れば『ドバイの発展は目覚ましいが、限りある資源の高騰に依存している繁栄は長続きしない。しかし、人間の知恵と未来への展望に限界はない。』とも。そんな夫だからこそ、さわかみ投信の理念に共感していたのだと思います。投資=社会貢献と考え、人に対する投資も惜しまない人でした。その思いが込められたさわかみファンドを、一生大切にしたい。」  今、木下さんは培った知見を惜しみなく施設や教育の現場で伝えている。果てしない介護の未来を見据えて。  最期の一口には、最期の一口を見守る人が必ずいる。私たちもお客様の一生に寄り添えるよう、運用実績とお客様からの信頼で世界一を目指したい。

 
 

【直販部 佐藤 紘史】
 

 
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社会福祉法人 翠燿会 グリーンヒル 
副施設長 管理栄養士・臨床栄養師
木下 福子様 (写真左)

 
平成16年度厚生労働省研究員として施設及び居宅高齢者への栄養・食事サービスのマネジメント研究に携わる。また、介護の現場や大学等でその知見を活かし、後人の育成にも尽力されている。

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