株主の短期的志向
草 投資家、ステークホルダー、企業というのは表裏一体なはずですが、どちらが強いかという話になりがちです。かつてヨーロッパには本物の運用会社がいくつもあったと聞きますが、昔に比べてヨーロッパ・アメリカの運用もずいぶん変わってしまったのでしょうか?
澤 激変。70年代半ば以降、一気に世界は悪くなってしまった。諸悪の根源は年金運用。もともと年金は20~30年の長期運用が当たり前で長期投資の面白みを味わっていた。でも、70年代以降、年金制度は整備されて年金資産が世界最大の運用マネーに一気にのしあがった。その中で「年金は大事なお金だから20年経って国の運用が下手だと手遅れだ、だから毎年成績をチェックしましょう。」という概念ができちゃった。それであっという間に運用会社が短期投資に軌道修正した。投資運用から資金運用というマネーマネジメントに転じて、80~90年代に、投資・理論の行動化やテクニックが一気に進んだ。そうじゃなくてどういう社会を作っていくか、どうお金を回していくかが投資のはずなのにだ。
草 昔のバンカーにも言えると思います。当時は顧客から預かったお金を大切に守る、そしてそれを増やすために一緒に育てよう、増やすための努力をしようという意識がありました。それがいつのまにかフローだけを大事にするようになってしまったことも運用環境が激変した理由だと思います。しかし、私たちさわかみファンドは、そういった短期的な志向でテクニック重視の資産運用とは一線を画しています。でも、経営者の方でもそういう短期志向の投資家しか知らないが故に、すぐに配当を出しましょうかとか自社株買いしましたという話になってしまいがちです。経営者の方に「長期的に企業価値を高める対策は何ですか?配当に意味があるならいいけれどないなら必要ないです」と話すと、びっくりされる事もあります。
澤 我々がしっかり考えなくちゃいけないのは今のお金の流れ。金融と同時に経営実態とかけ離れて世の中のお金の流れがゆがんでいる。運用もどきのものが企業経営を引きずり倒しているわけ。これから、さわかみファンドを大きくしていかないといけない理由はそこにある。企業にも、本来あるべき姿を思い直してもらわないといけない。ここが我々の次の10年20年のテーマだよね。企業経営では、ひとつ舵を切ったら成果が出るのに5~7年かかる。そういうスパンでもって経営している。それに対して株主が短期志向になっている。長期とは言っているけど、2~3年で現金回収しようとしている。3年以内に現金回収するような事業をやりなさいよと、それをやる経営者がプロの経営者。もっと長期でやりましょうよというと、クビになったりする。株主そのものがおかしくなっている。将来の資産形成のためにうちみたいなのがもっと多く出てくる。それぞれの運用会社が哲学を語り、世界の運用も徐々に加速しながら変わってくる。短期的な利益を追求するだけの運用会社は仕事を失うだろうね。同時にインデックスみたいな単純な運用じゃなくて丁寧に企業と会話するリサーチとか、当たり前の事を当たり前にやる運用者が流れを作る。
草 これからは企業と、株主と従業員がそれぞれに機能していかなければならないと思います。例えば従業員の方で株式投資に興味があって投資している人って、会社では、じっくり腰を据えて仕事をしていたりするのに、自分の投資に対しては、すぐに上がった下がったとか、配当がいいとか、優待がどうとかっていう観点でモノを見すぎです。企業経営者も、株主がそういう人しかいないと思っているし、従業員に対しても、会社のことを考えて行動できないと思っている節があります。株主は株主で色々みんなお互い思っていますが、みんなが「長期的な企業の成長」という同じ立場で考えれば、会社がちゃんとうまく回るはずです。経営者の方について言うなら、長期的なビジョンを見せてドンっと構えてもらったほうがいいですね。例えば工場に投資するということは10~20年働く人を想定するということです。それこそ、その工場で働く方々が、家を買って、子供を産み育てと生活していきます。そうした人たちの生活を透かして見た場合に、例えば事業の整理縮小で撤退しないといけないというのは、相当な覚悟をもってやらないといけないことです。今の2~3年の中期経営計画をもとに、良かった、悪かったねっという評価の仕方をしているようだと、本当に一般的な投資家に踊らされるだけなので、将来の社会を考えたスパンで事業をしていただきたいと思います。