9月7日~9日まで幕張メッセで開催されたアジア最大級の分析・科学機器展示会を見学しました。国内外の企業504社が出展し、入場者数は24,381名でした。今回は、「素材・材料の開発と品質管理がものづくりの競争力を支える」をコンセプトに「自動車・電子部品の材料分析」「健康・機能性食品」「環境浄化製品」「ライフサイエンス」分野で使われる分析ソリューションが紹介されました。
世界に必要とされる分析機器
大学や企業の研究ラボ向けの光分析装置、分離分析装置、熱分析・熱測定装置、自動車排ガス分析計、水質汚濁分析装置、保安安全用分析機器、医用検査機器、食品分析機器と分析用試薬や消耗品類の各メーカーがテーマ別に具体的な実験方法の展示を行ない、各企業のブースは、ユーザーへのプレゼンテーションで賑わっていました。分離分析機器の代表製品はクロマトグラフといい、混合物の構成成分を分離し、その構成成分を定量・定性的に測定する方法です。
クロマトグラフとは1906年にロシアの植物学者であるM. S. Tswettがクロロフィルaとbの分離に成功した時、有色物質をカラム※内に別々の吸着帯として分離したことに始まります。クロマトグラフでは、試料が固定相と移動相という平衡状態にある二つの層を移動する間に試料中の各成分がそれぞれの層と相互作用し、作用の差で分離されていきます。分離された構成成分を定量、定性的に測定し、時間と濃度分布で記録したものがクロマトグラムです。現在では、高速液体クロマトグラフが世界中の研究機関になくてはならない基本的な装置として日々稼働しています。
各学界に広く普及
クロマトグラフは消耗品である分離カラムを中心とした幾つかの機器の集合体(試料の流路となる送液ポンプ→オートサンプラー→カラム→検出器→データ処理装置・ポストカラム送液装置)なので、装置性能は導入当初と変化ないか、劣化度はどうなのかが研究者にとって重要な関心事です。クロマトグラフは一台数百万円~数千万円もする高額製品ですが、何台ものクロマトグラフをメーカー技術者の協力のもと分解して改良する実験を記した内容の本も出版されています。近年は、環境の複合汚染となっているため多種類の混合物から極微量な成分を検出できる高速機種が残留農薬や土壌ダイオキシン分析や食品安全に欠かせない検査機器として広く普及しています。
全ての科学の進歩は技術の進歩
高額であり、解析メソッド・ソフトウェア、データ評価の継続性やリスク管理上から他社にスイッチされ難い製品でしたが、ライフサイエンスの先端研究で大規模・超高速分析のニーズが高まり、コストパフォーマンス競争が厳しくなっています。先端創薬、先端診断、次世代ヘルスケア、細胞・再生医療、フードサイエンス、関連IT領域で研究者がブースで交流し、材料分析ではライバルメーカーの開発関係者が情報交換することもあるそうです。良いものづくりをしたいという同志でもあり、競合他社動向も自社技術の追求と共に競争上で重要な情報のようです。クロマトグラフなど分析機器の世界市場では米国や英国企業がリーダーでしたが、日本企業が自動車、半導体、医薬品産業が急拡大した中国やアジア企業向に用途別アプリケーションを強化し、コストパフォーマンスの高い新製品でシェア拡大を続けています。
日本製品の輸出額はリーマンショック時を除いて成長を継続、2014年度に過去10年でラボ用分析機器は約2倍に、医用検査機器・システムは約3倍に伸長し、頭角を現しています。これに対し、クロマトグラフ開発50年の世界トップクラスの米国企業は、5年前から世界の75業種の顧客から「ラボで困っていること」を聞き取り調査し、ユーザーの共通課題(現場職員の誰でも使えるくらい操作性が良いこと)を設計思想に、既存高速機種と比較して画期的に省スペース、数分で正確にカラム交換、タッチパネルでワンストップのデータ管理、スマホで遠隔チェックできるガスクロマトグラフの新製品を今秋から発売しました。企業の研究開発投資は、景気サイクルの影響を受け難く人口増加による経済拡大や環境変化に対応し、一層複雑な課題の研究が必要になります。クロマトグラフ創始者M. S. Tswettの「全ての科学の進歩は技術の進歩である」という精神も出展企業への取材を通じて感じました。以上のように、運用調査部は展示会見学を国内外企業の競争や製品開発動向の調査にも積極的に活かしています。
※カラム:ガラス管の中に炭酸カルシウムを詰めたもの
【ファンドアドバイザー 歌代 洋子】