政府も企業も個人投資家を増やそうと躍起だ。政府は市場の受け皿を個人に担わせようとし、企業は個人株主を増やすことで経営の安定化を図りたいところだ。前回までに政府の施策は述べたので、本レポートでは企業の施策のうち株主優待の是非について改めて考えたい。
株主とは企業のオーナーである。したがって企業の提供する商品やサービスを割引価格で利用できても何ら違和感はない。鉄道会社が自社路線の乗車券を株主に配布したことが優待の起源のようで、その後、観劇チケットや自社商品の詰め合わせなど導入企業・対象商品も広がっていき、現在では上場企業の3分の1が優待制度を導入するに至っている。惜しむらくは昨今の優待の内容だ。クオカードのような金券など本業と無関係なものが最多で、優待は個人株主を集めるためだけの制度になり下がっている。
そもそも企業が優待制度を導入する背景には、長期保有株主を増やすことによる経営や株価の安定化がある。株の持ち合いが終焉し外国人や公的機関までもが市場参加するようになり、株価を見る株主、物を言う株主が増えた。その対抗勢力となりうる広く薄く長く持つ個人株主は企業にとって求めたい相手なのだ。しかしながら個人株主も様々で、クロス取引など短期で優待を掠め取る手法が生まれたり、企業は長期保有者を優遇する優待制度を設けたりと、いよいよ優待を取り巻く欲が露骨になった様相だ。株主優待が行き過ぎだと言うならば、それは個人株主にも責任があろう。
配当金は税引き後の株主利益から分配される。分配せずに高成長を目指そうとする企業ならば、無理に配当金は出さず企業価値向上を図ればよい。それが叶わない企業、または長期視点からどのタイミングでも実現利益を享受してもらいたいという意思が毎年の配当金に込められていると考えられる。一方で名前の通り優待は自社商品やサービスの提供であり、売上値引や販促費、広告宣伝費であるため節税効果がある。したがって優待は企業にとって是なのである。安定株主を得られ、且つ、新商品の宣伝も期待できる。割引券であれば追加売上も見込め、稼働率上昇によって相対的なコストダウンも享受可能だ。ちなみに受け取る株主側も、配当金であれば法人税差引後の株主利益に所得税等と二重課税となるが、優待は少額であれば実質非課税、企業も費用計上できるため、やはり是だ。なお、割引によって費用過多となった部分や本業と全く関係のないクオカードなどは交際費とされ節税効果を得られない。本業を“優待”し企業価値の向上を図れる制度は是だが、単なる人気取りや株主集めは非であり、そうであれば配当金に一本化すべきだろう。
「当社は将来、このような商品を提供すべく開発・生産に努力します。株主の皆さま、ご期待ください!」10年後に公約通り夢のような商品が上市され、開発段階から共に歩んだ株主にその最初の商品が贈られる。優待とはやや違うが、本来、株主への贈り物はこうあって欲しい。
代表取締役社長 澤上 龍