私たちの目指すのは責任ある投資家
草 ところで、江藤さんは、企業は誰のものだと思いますか?
江 従業員や経営者、そして世の中にモノを生み出すという意味では社会全体のものだと思いますが違いますか?
草 アメリカでは、“企業は株主のもの”という考えが主流です。株主は自分のお金を投じて企業のオーナーになるわけなので一理あります。しかし、近年はその株主が自分の儲けだけを追求して企業に物申すことが多くなり、社会にもたらす影響をとても気にしています。
江 株主が企業に物申すとは、具体的にどのようなことを求めているのでしょうか?
草 目先の儲けを大事にする株主は、純利益をできるだけ膨らませて自分の手元に入る株主還元(自社株買いと配当金)を多くするように企業に求めます。そういった圧力が強ければ、経営者は短期で成果を出せるコスト削減を優先するでしょう。つまり、下請け企業への値下げ圧力、従業員の給料カットやリストラ、設備投資や研究開発費の削減などを行うのです。
江 何だか企業にとってあまり良くないように感じるのですが…
草 その通りです。自分の利益のことしか考えていない株主は、満足すれば株を売るので、いつ株主でなくなるか分かりません。その後に企業がどうなるかなんて考えていません。しかし、現実的な問題として企業活動は続いていきます。設備投資や研究開発費を減らせば将来に向けて新しい商品・サービスを生み出す力が弱まってしまいます。つまり、今の株主の目先の利益を大切にしたばかりに、将来の競争力を失ってしまうことになるのです。また、利益追求のため、従業員の給料を減らしたり解雇したりすれば、彼らの食べたり飲んだり着たりという消費が抑えられてしまいます。実はそういった消費が企業の売上に繋がっているのです。そのため、給料が減る→消費が減る→売上が減る→業績悪化からリストラ という悪循環が起きていくのです。利己的な投資家ばかりでは、社会全体がお互いの財布の中身を奪い合うだけになってしまいます。
江 自分たちの投資行動が結果として、社会全体に影響を与えてしまうなんてあまり考えたことはなかったですね。投資して株主になるということは、行動責任が問われているとも言えますね。
草 市場型の短期金融資本主義で株主だけが儲かる社会ではなく、私たちは投資家も企業も社会もすべてよしの、みんなを幸せにする日本的な資本主義を作りたいと思っています。そのためには、投資先企業との関係を、搾取する立場ではなく、ともに成長する“パートナー”として関係性を築く必要があります。そうなれば生活に必要な企業を利己的な株主の影響から緩和できます。