2017年度4-6月期決算が7、8月にかけて発表されました。多くの産業において概ね好調な業績となり、世界経済の回復および拡大が示唆されるものでした。中でも目を引いた産業のひとつが、ロボットです。ロボット市場はこれまでも持続的な成長をしてきました。IFR※1による産業用ロボットの世界における稼働台数をみると、2015年前後においてピークを迎えていない大国は日本とロシアくらいです。その中でもとくに中国において、爆発的なロボット需要が生まれています。日系企業の直近の受注動向にも、それは顕著に表れています。
人口動態と中国
これから世界的な少子化・高齢化が進んでいきます。それに伴い各国において、生産年齢人口(15~64歳)に対する従属人口(15歳未満と65歳以上)の比率がますます高まっていきます。先進国では、日本が1990年代前半にはじめてピークを迎え、米国は2000年代後半、そして中国は2011年頃に転換しています。一人の被扶養者を支える働き手の人数が減少していくことにより、社会全体の債務は膨らみ、経済活動は鈍化していきます。経済成長は人口と労働生産性の積で求められるように、持続的な経済成長のためにはロボットの活用による生産性の改善が欠かせません。
また中国では農村に約7億人が存在するので、人口動態上の影響は軽微という見方もありました。しかし、中国においても「ルイスの転換点」※2は必ず訪れるでしょう。もしくは世界銀行が言及するように、もう迎えているのかもしれません。それにより農村から都市部への労働力の流入が途絶えて、賃金コストが上昇します。中国は人口の多さと賃金の安さから世界の工場を担ってきましたが、労働力の確保が困難になり、かつ賃金の増加が顕著になります。それが中国におけるロボット需要増加の大きな要因です。
加えて、中国では国策的にロボットの普及を目指し、共産党が「メイド・イン・チャイナ2025」と呼ぶ10か年計画を策定しています。具体的な目標は、2020年までにワーカー1万人あたり150台というものであり、現在の約50台に対して3倍にもなります。しかし他国と比較してみると達成不可能な数字ではありません。国際ロボット連盟の資料によると、ワーカー1万人当たりのロボット稼働台数は、韓国が531台で最も多く、次にシンガポール398台、日本305台、ドイツ301台と続きます。これらの数字をみると中国の国策は理に適ったものであり、今後の産業用ロボット市場の拡大への追い風となるでしょう。
ロボットの多様化
顧客ニーズの高まりと技術の充実により、ロボットが多様化しています。産業用ロボットは工場の中において金網で囲われて使用される巨大で精巧な腕型ロボットを指しています。しかし最近では人が現場で一緒に働ける「協働ロボット」が注目されています。別名、「コ・ロボット」とも呼ばれます。従来の安全柵で囲まれた産業用ロボットとは異なり、安全柵不要で人の近くで働き、人の支援や、協調作業をすることで単純な労働を置き換えることができます。大手ロボットメーカーのみならず、米テラダイン社に買収されたユニバーサル・ロボット社や日系企業と国内独占販売契約を締結したリシンク・ロボティクス社、日本発のライフロボティクス社といったベンチャー企業の活躍が目覚ましいです。同市場の規模は2015年で150億円、2025年で1兆5,000億円と急拡大が見込まれています。今後の協働ロボットの技術的発展及び低コスト化に伴い、新興国において安い人件費を搾取する輸出型モデルではなく、需要のある現地においてコスト競争力のある生産システムを構築する企業がより増えてくるのではないでしょうか。
またおよそ20年後の2035年においてはサービスロボットが最大市場になるとの予測があります。サービスロボットとは、医療や介護、重労働において使用される「装着型ロボット」、物流倉庫などで使われる「運搬用ロボット」、清掃に使われる「清掃用ロボット」、Pepperのような「コミュニケーションロボット」などがあります。NEDO※3は2035年において産業用ロボット2.7兆円に対して、サービスロボットは5兆円市場になると予測しており、息の長い成長に期待ができます。
さわかみファンドにおいてもいくつかの完成品及び部品メーカーを組入れており、投資タイミングを図っている企業も複数存在します。今後とも人口動態などの長期的な時流の変化を読みながら、成長企業を発掘していきます。
アナリスト
坂本 琢磨
※1 International Federation of Robotics
※2 工業化の過程で農業部門の余剰労働力が底をつくこと
※3 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構