投資行動を一言で表すなら“将来の納得に対し現在の不納得で行動する”に尽きる。現時点で皆が納得する将来性は株価に織り込まれ済み、投資妙味はない。納得できないもの、つまり不確実な将来に挑むことが投資である。これは投資に限らず企業経営、事業推進、延いては個人の生き様など将来に挑む全ての基礎だ。経営判断に誰もが納得できる状況とは、付加価値を生む機会である社会の歪みが既知となっている場合に多い。誰も気づかないところにビジネスチャンスは存在し、だから競合他社の早期参入も許さない。または皆が避けたい危険地帯にこそ掘り出されていない宝が埋まっている可能性があるのだ。個人においても周囲の納得を得るだけの生き方に面白味はない。それらを振り切ってでも走ることが自らの可能性を高めることに繋がるだろう。アウトローとは言わないが、普通とは違う生き様に信念をもって突き進む人に憧れるのも人間の性である。
現在の不納得で行動するとはいえ、判断を下す自身が納得しなければ前に進めない。最も辛いのは、自ら納得できないのに周囲の納得だけで推し進められてしまうこと、人形となることである。経営者は孤独と言われ、個人であれば自己責任の一言で片づけられるが、誰が何を言おうと進むべき時は進む。組織を動かす時も同じ、全員の納得を待っていては遅い。新しいことに挑戦する際に周囲の納得や理解を得られることは稀である。歴史に習えば大義を掲げることをその代わりとした。結果を見せ続けることもまた納得や理解を超える関係を築く。それを信頼と呼ぶ。独りよがりにならず、社員や顧客の将来を守る責任と覚悟を持ち彼らを仲間とできれば展開は加速するが、しかし判断は自ら下さねばならないのだ。現代のような人材の多様性が求められる組織、顧客対応において全てのニーズを汲み上げることよりも、それらを抑えて将来の納得を作り上げることが本質的なリーダーシップだろうし真の顧客本位な姿勢なのではないか。“自らへの納得”と行動をもって時の審判に耐え、結果にこだわらなければ新しい道は築けない。そこに合理性の入る余地は少ない。
「後ろが引きちぎれても組織は成長を目指さなければならない。」とは当社創業者澤上篤人の口癖だ。組織の規模や成長段階によってそぐわない点もあるが、社会変革を起こそうと挑むには必要な考え方である。最後にその考え方を体現する組織を紹介したい。公益財団法人“さわかみオペラ芸術振興財団”だ。
財産が殖えた先には使い方が求められる…よって今からカッコよいおカネの使い方を提示しよう。おカネを回すことで経済は動く…せっかく使うなら人間こそが持つ芸術の分野を皆で支えよう。一般生活者を対象とする当社に対し、一見ブルジョアに見える同財団は、さわかみグループから生まれたとはいえ社内外から理解を得難い。それでも走り続ける勢いに追いつけない社員も発生、組織も財務も厳しい状態が続く。しかし切り取った“今”という瞬間を見ると、携わる社員の目に炎が見える。脳だけで判断せず、状況だけで批判せず、現場でどれほど新しい感動を生んでいるかが大切だ。現在の周囲の不納得に抗い、将来の納得へ進む姿を是非多くの方に観ていただきたい。これもまた社会をつくる投資の姿である。
【代表取締役社長 澤上 龍】