2018年に入って早くも4ヶ月が経ちましたが、今年も私たちは精力的に海外取材を続けています。1月~3月の間に、私たちは自動車の将来像を見据える上で重要な意味を持つ3つの展示会を訪れて参りました。1月には米国で「デトロイト・モーターショー」と「コンシューマー・エレクトロニクスショー」を、3月にはスイスで「ジュネーブ・モーターショー」を訪問取材しています。それらの展示会の底流にあるのは、「環境・安全・利便性」への強い志向であり、「電動車両」、「自動運転」、「シェアリング」、「つながるクルマ」といった技術的提案が各社から示されています。
デトロイト・モーターショー
「環境・安全・利便性」の追求に加えてSUVやピックアップトラックの品揃え拡充に注力
デトロイトショーの概要
デトロイトショーは米国Big3のおひざ元であるデトロイトで毎年1月に開催される全米最大規模の自動車ショーで、世界的にも、ジュネーブ、パリ、フランクフルト、東京で開催されるショーと並んで世界5大モーターショーの一つとして位置づけられています。初めてのモーターショーがデトロイトで開催されたのは1899年に遡り、その歴史は100年を超えています。
モーターショーには、発売を間近に控えた新型車のプロトタイプや技術開発の方向を示唆するコンセプトカーなど多数が出展されます。ショーは、業界各社・関係者とジャーナリスト・アナリストに限定されるプレスデーの後、広く一般公開されて、購入候補のクルマの品定めや家族や子供を連れて訪れる娯楽の場にもなります。
北米カー・オブ・ザ・イヤー:
ホンダが3年連続で最優秀賞を獲得
デトロイトショーでは開催初日に、新型車の中から最も優れたものをカー・オブ・ザ・イヤーとして発表することが毎年の恒例行事です。最優秀賞は米国カナダの自動車ジャーナリスト約60名の投票によって乗用車部門、ユーティリィティ部門、トラック部門で各々1台、合計3台が選出されます。今年は日本車からは2017年の夏に全面改良されたホンダの中型セダン「Accord」が乗用車部門で最優秀賞の栄誉に輝きました。ホンダは2016年には乗用車部門で小型セダン「Civic」、2017年はトラック部門で「Ridgeline」が最優秀賞を獲得しており、優れたクルマづくりが北米で高い評価を受けています。
日本メーカーの主な出展
トヨタは上級セダンの「Avalon」の新型とレクサスのSUVコンセプトモデルを発表しました。トヨタは「もっといいクルマづくり」の活動を進めており、プラットフォームの更新に際して、パワートレイン、ボディ、足回りを一括して刷新するとともに、部品の共用化による原価低減を進めて「いいクルマづくり」の原資を稼ぎ出しています。昨年世代交代した「Camry」に続いてこの「Avalon」もその活動の一環から生まれたものです。他方、レクサスのSUVコンセプト「LF-1 Limitless」は、レクサスブランドのSUVのトップエンドを担うべく商品化を見据えたものとみられます。
ホンダは大ヒット商品である「Civic」をベースとしたハイブリッド車「Insight」を今夏に発売するのに先立って、プロトタイプを公開しました。一方、高級ブランドのアキュラからは小型クロスオーバー「RDX」のプロトタイプを出展しており、その内外装デザインが今後のアキュラのデザインのベースとなっていくとのことです。
日産は、日産ブランドからは「Xmotion」、インフィニティブランドからは「Q Inspiration」と2つのコンセプトモデルを出展して、各々のブランドの将来のデザインの方向性を示しました。今後数年内に全面改良されて登場する新型車のデザインをコンセプトの形に凝縮したものと考えられます。
SUBARUはこの10年間で米国での販売台数を3倍超に拡大しましたが、今後の重要な課題の一つは、顧客の再購入を促してSUBARUブランドに囲い込むことで、そのためには品揃えの拡充が重要です。これまでは3列目のシートを備えた多人数乗用車をラインアップしていなかったので、家族構成やライフスタイルの変化で多人数乗用車を必要とする顧客を他社に奪われていましたが、今後は多人数乗用のニーズを持つ顧客の獲得が可能になります。
米国メーカーは
得意のピックアップトラックに注力
米国はピックアップトラックが中西部を中心に好まれるという特徴があり、2017年は1,720万台の販売の内で約16%を占めています。今回のデトロイトショーでも、米国メーカー3社はいずれもピックアップトラックの新型車を積極的にアピールしていました。
コンシューマー・エレクトロニクスショー
自動運転、AI、IoTの観点から自動車関連の出展が急増
コンシューマー・エレクトロニクスショーの概要
家電ショーというよりはハイテクショーの色彩が強くなってきた
コンシューマー・エレクトロニクスショー (CES: Consumer Electronics Show)は、民生機器テクノロジー各社が出展する世界最大規模のショーで、毎年1月に米国ネバダ州のラスベガスで開催されます。消費者家電を中心とするショーとして1967年に初めて開催されて以来、ビデオカセットレコーダー(1970年)、レーザーディスク(1974年)、ビデオカメラ・CDプレイヤー(1981年)など花形家電商品が続々とデビューを飾りました。近年は電気・電子製品に加えて、先進運転支援技術、自動運転、AI、IoTといった観点から自動車関連の出展が急増していて、自動車メーカーも日本・米国・欧州・韓国の各社がブースを構えて積極的な出展を行っています。
日本メーカーの主な出展
トヨタは2016年に米国に新たに「トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)」を設立して、人工知能、ロボティクス、自動運転など先端技術に関する研究や商品企画を行っており、今回のCESに出展した自動運転車はそのTRIが開発した第3世代の実験車です。一方、モビリティサービスの点では、電動化、コネクティビティ、自動運転技術を活用した電気自動車のコンセプト「e-Palette」を出展しています。移動、物流、物販など多目的に活用することを想定したもので、実際の事業展開を見据えてAmazon、DiDi Chuxing (滴滴出行)、Uber、Pizza Hut、マツダをパートナーとしてアライアンスを締結しています。
ホンダは「ASIMO」で培ったロボティクス技術を生かした4つのコンセプトロボットを出展して、メインステージ上でデモンストレーションを行っていました。それらのコンセプトに共通するキーワードは「3E」で、①Empower (人の可能性を拡大)、②Experience(人と共に成長する)、③Empathy(人と共感する)を現わしています。一方、バックステージでは、2018年内に日本とアジアで発売する電動バイク「PCX Electric」を展示していました。
日産は、脳波を解析してドライバーの意図を先読みしてクルマの挙動に結び付けるという「B2V: Brain to Vehicle」技術を提唱していました。スタンド内の他のステージには、新型「Leaf」、マイナーチェンジでレベル2自動運転機能「ProPilot」を搭載した「Rogue」、東京モーターショーで公開した自動運転EVコンセプト「IMx」などを取り揃えていました。
ジュネーブ・モーターショー
「環境・安全・利便性」だけでなく走る喜びも追求
ジュネーブショーの概要
ジュネーブショーの起源は自動車と自転車のショーとして開催された1905年に遡り、その後1924年に国際モーターショーへと格上げされました。途中に戦争による中断などを挟みますが、2018年のショーは国際モーターショーとして第88回を数えて、先にご紹介したデトロイトショーとともに、世界5大モーターショーの一つとして世界の注目を集めています。また、スイスには自国自動車メーカーが存在しないため、フランクフルトやパリのショーとは異なりお国贔屓がないので、日本を含め世界の自動車各社が平等な条件で出展できるのがジュネーブショーの大きな特徴です。
日本メーカーの主な出展
トヨタブランドからは来春発売のコンパクトハッチバックの「Auris」の次期型とスポーツカー「Supra」の復活を示すコンセプトモデルを、レクサスブランドは今年末に発売予定の小型クロスオーバーの「UX」を世界初公開しました。
トヨタは欧州でディーゼルエンジンを搭載する乗用車の販売を段階的に終了する方針を明らかにしており、2018年以降に発売する新型乗用車からはディーゼルエンジンの設定がありません。例えば次期型「Auris」のパワートレインは、ターボ付きガソリンエンジンまたはガソリンエンジンとモーターのHVのいずれかとなります。これまではHVと言えば環境性能重視でしたが、新型「Auris」には従来タイプのHVに加えて、エンジンやモーターの性能を引上げた高性能版も設定して、お客様の選択肢を広げる計画です。
SUBARUは「VIZIV TOURER CONCEPT」と名付けたワゴンのコンセプトを世界初公開しました。デザインは2019年に登場が予想される「Levorg」の次期型を強く示唆するものです。日本車各社は2020年頃を目途に自動車専用道路でのレベル3自動運転(システムから要請があれば人間が運転を交代)の実現を予定していますが、このコンセプトモデルはそれを可能とする高度運転支援技術を備えているとみられます。
欧州メーカーは電動車両、自動運転、
スポーツカーなど百花繚乱
欧州は中国や米国とは異なり、一定比率の電動車両の販売を義務付ける規制はありませんが、厳しい燃費規制があるので実質的には燃費の良い小型車や電動車両の導入を促すことになります。また、ドイツのように産官一体で自動運転技術を普及させようとする国もあります。そのような背景から各社のセンターステージは、電動車両と自動運転のコンセプトカーが賑わすのですが、その一方で、高性能な内燃機関パワートレインを搭載して運転する喜びを追求するスポーツカーも確固たる地位を占めていました。
まとめ:「環境・安全・利便性」は東西を問わない普遍的テーマだが、走る喜びも自動車各社は大切にする
環境と安全に関する規制は厳格化する一方ですが、自動車各社は技術革新を進めることで規制に対応していきます。また、IoT技術の進化によってつながるクルマやシェアリングが日常的になり、消費者はその利便性をひとたび味わうと、不便だった過去には戻ろうとしません。今日の自動車には機械工学だけでなく、電子工学、IT、AIなど広範なテクノロジーをスピーディーに取り込んで進化していくことが必須であり、社内のリソースだけでは不十分な場合にはスペシャリティを持つ他社との協業を積極的に進めています。しかし、一方で走る喜びという本源的な欲求に応えることも自動車各社はおろそかにはしておらず、ともすればコストや工数ばかりが先立つ規制対応を乗り越えていく上で、高付加価値な商品づくりにも注力しているのです。
【シニアアナリスト 吉田 達生】