信頼できると思っていた情報が、実は全く根拠のないもので事実ではなかったとしたら皆さんはどうしますか。ネット社会になり、多くの情報が瞬時に手に入るようになったおかげで、昔だったら考えられないほど優れた情報にアクセスできるようになっています。私が子供の頃は地域格差が大きいと言われた受験勉強も、優れた講師の授業をネットで見ることができるようになり物理的距離や時間といった制約が無くなってきていますし、スポーツや遊びの分野においてもプロ選手の指導やその道の達人による解説は説得力もあり、根性論ではない正しいトレーニング方法を知れる良いツールとなっていて、自分自身が子供の時に知りたかったよ!というものまであります。
以前は情報の信頼性について「ネットor新聞、本」というような比較が成り立ちましたが、今ではネットの社会性も向上しこのような比較は過去のものです。一方で「個人、匿名、不特定多数or企業、組織」という比較であった場合、圧倒的に企業や組織、特に知名度や公共性が高ければ高いほど信憑性が高くなります。あの企業なら間違いないだろう、といったような。たいていの場合、発信元と信憑性を結び付けて判断しているわけですが、そこに落とし穴が潜んでいる場合があります。具体的には、4月号に紹介したCSVの考え方に則した経営をしている企業を調べていた際に判明したものです。そこには投資先企業のある取り組みが紹介されていたのですが、その事例については初耳だったのでその企業に直接問い合わせたところそのような事実は全くなく、過去に取材を受けた履歴すらなかったとのこと。その記事は国内最大手シンクタンクのものであったことは私にとって何より衝撃でした。
私たちが自社の理念をもとに調査を進めていくうえで、とても重要になるのはその企業が人々に必要とされ成長するのはもちろん、本当にその企業が自己利益のために環境や人権などを犠牲にしていないかという点も重要で、最近はSDGsという取り組みとして広がっています。このSDGsというのは、2015年9月の国連サミットで採択された「誰一人取り残されない」持続可能で多様性と包摂性のある社会実現のため、2030年までを期限とする17の国際目標のことです。余談ですが、最近ビジネスマンの間で流行っているのがSDGsのピンバッジだそうです。これは国連で販売されているのですが、あまりの人気ぶりに品薄状態が続いているそうで、オークションサイトで定価の数倍で取引されるほど人気があるそうです。
当然ながら日本もこの取り組みに積極的にかかわることを表明しており、昨年12月に第1回「ジャパンSDGsアワード」表彰式が開催され、組入れ企業である住友化学株式会社、株式会社伊藤園が選ばれました。投資の世界ではESGが定着していますが、リーマンショックによって短期的な金融資本主義に対する批判が強くなったこともあり、ESGを投資のプロセスに組み入れるとする機関が増え、運用資産残高は17兆$(1,800兆円)まで膨らんだそうです。それまでもSRI(社会的責任投資)など、形や言葉を変えてきましたが、このような持続可能性ということに関して社会の関心が本当に高まっていると感じます。
事業会社からの話によると、投資家からの議論は持続可能性についての内容が増え、これまでにはなかったような質問や意見があるそうです。一例では、中国にある取引先企業の工場における環境対策の報告や、使用する原材料が適切な対価を払ったものか、違法な採掘ではないか、児童労働が行われていないか、それらを追跡できるようトレーサビリティができているかといったようなものだそうです。これらは何も崇高な理想論ではなく、実際に企業の競争力にも直結する問題だからと言えます。先ほどの企業は、取引先企業への監査強化や環境対策についてのコンサルティングを行うことで、当局による規制強化により操業ができなくなった地元企業をしり目に好調を維持し、調達問題にならずに済んだそうです。
しかし、このような情報は決算資料などには無く、統合報告書に記載されているデータもどのような計測方法なのか、それは正しい方法と言えるのか、正しいことを証明できるのか、他社と比較可能かといった点はまだ整っていないのが現状です。会計や社内管理体制については監査法人のチェックになるので確からしさは担保できますが(それでも問題はいろいろ起きていますが)、SDGsやESGではそのような監査機関はありませんし、すべてはそれを発表する企業にかかってきます。例えば、生活に必要な食糧をIT技術や最先端技術を駆使して社会に貢献している企業を調査し始めた時、立場の違いから意見が分かれてしまうことがあります。それによって仕事を得、生活が安定したとする人もいれば、NGO団体などからは森林破壊にとどまらず、気候や風土を変え収奪しているという批判もあります。
シンクタンクの件やこのようなことがあると、自分が信じている情報が本当に正しいのか疑い判断に迷いが生じてしまいます。だからこそやはり情報は自分の目、足を使って真実を探求し、志をもとに決断しなければならないと思います。そうすることで目的を見失わないでいられると歴史は教えてくれていますから。
【取締役最高投資責任者 草刈 貴弘】