各地にお住まいのファンド仲間とじっくり話したい…できれば全員と。そんな私の想いを社員が具体化してくれたのが終日滞在型勉強会“あなたの街で社長と語る長期投資”だ。皆さまが時間に縛られずに参加できるため、なるほど全員とは言わないが多くの方にお会いできる。その一つ、仙台にて衝撃の出会いがあった。およそ一年前のことだ。
2017年6月21日昼過ぎ、お孫さんと思える女の子を連れたお祖父さんが会に来られた。子守中だけど来てくださったのかな、という当然の推測とは違い、なんとその女の子が自ら参加したく保護者としてお祖父さんを連れてきたのだった。「何歳ですか? なぜ自ら長期投資の勉強会に?」矢継ぎ早に私は聞いた。
小学校6年生の彼女の名は、北川葉(よう)ちゃん。「私は開業医になりたいのです。そのための資金を、今から長期投資でつくろうと検討しています。先日、某運用会社のセミナーで直販投信が良いということを知ったのですが、そのオリジナルがさわかみ投信であることを調べ、ぜひお話を聞きたいと思い来ました」。私のみならず、その時間帯にいた他の参加者全員が驚いたことは言うまでもない。
2018年4月、仙台でのセミナーの機会を得、どうしても彼女に会いたいとアポを取った。一年前と同じくお祖父さん、そして今回はお母さんも一緒に参加してくれた葉ちゃんは制服姿になっていた。
「私は地域に信頼される医者になりたいのです。分野は内科。最近は鉱物や化学、シェイクスピアに出てくる“言い回し(表現)”などに興味を持っています」。小学5年生の頃、十五夜の前日にススキの販売ビジネスに挑戦したことが地方新聞に掲載された。お父さんのツテでススキを手に入れ神社の一画を借りて販売。時折出席する地域サークル(高齢者向けの地域福祉活動)の方や地域の方などに一束30円で600円を売り上げた。顔見知りの葉ちゃんだからこそ皆が買ってくれたという点は否定できないが、それでも葉ちゃんのススキが地元スーパーの販売価格の半額以下だったことも功を奏したらしい。「信頼や繋がりってビジネスにおいて大切ですね。売上金は、東京へ行った際に大好きなぬいぐるみを買う資金に充てました。600円で収まりませんでしたが(笑)」。当時を振り返る葉ちゃんの笑顔は無邪気で可愛い女の子の顔だが、しかしその眼差しには大人らしさが宿りつつあった。
信頼とはいかにして醸成されるのだろう。「やはり挨拶だと思います。多くの人と笑顔を交わすことです」。医者として不断の勉強は欠かせない。しかし腕だけでは信頼に足るとは言えない。過去からの顔見知りという点は、医者としての観察眼(長期間の経年観察)だけでなく、お互いの人間性を理解しているというアドバンテージになる。治療行為は医者と患者双方にとって不確実な未来への期待を叶えるものと言えよう。回復を願いつつも、治療が長期に及んだら誰でも不安になる。患者が不安になれば、医者とて100%の治療を施せないだろう。これは投資信託にも通じる話だ。投信会社と投資家顧客がともに歩む関係なかりせば、いかに現状を丁寧に説明されようとも、約束されない未来に希望を抱き続けるのは難しい。運用者は、投資家顧客を信じることなしに暴落時に投資などできない。資金の引き上げという不安が脳裏をよぎるからだ。言わずもがな投資家顧客が運用者を信じられなければ、そもそも投資信託の仕組みは成り立たない。誤解を招く言い方だが、医療も投資信託も現在の価値ではなく未来の成長(回復)を買う行為だ。だからこそ双方の信頼が必須なのである。信頼とは「笑顔で挨拶し続けること」と言い切る葉ちゃんだから顔の見える直販投信に魅かれ、自らの意思で勉強会に参加したのだと理解した。
一般的に、資産運用ニーズは漠然とした将来不安の解消という理由が最も多いと実感している。比べて葉ちゃんの目的は漠然としていない。むしろはっきりと描かれ、既に行動中なのである。中学生になりたての葉ちゃんだからこそ未来に純粋な期待感を抱けるのかもしれない。されど本来、多くの方が年齢を問わず葉ちゃんのように夢を抱けるなら、そしてそのために信頼する投信会社にて資産運用に励めるならばどれほど素晴らしいだろう。今回のインタビューでは、北川葉ちゃんに投資家のあるべき姿の一例を見せてもらった。
葉ちゃんから二つのリクエストをいただいている。一つは「私のような子どもでも始められるように毎月の積立額を1,000円にしてください」。もう一つは「さわかみ投信の金曜勉強会(アナリスト公開勉強会)に出たいのですが、東京だし、学校も休めないので、ぜひ仙台で土日に開催してください。できれば化学のアナリストの方のお話が聞きたいです」。純粋なリクエスト、なんとか叶えたいものだ。
病気になりたいと思う人はいないだろう。しかしもし病院へ行くことが不可避な状況になったら、私だったら地元で信頼できる、まさに葉ちゃんのように月日の経過をお互いが理解しあっている医者を最初に選ぶだろう。その時は“くりきんとん”を持参して。
【代表取締役社長 澤上 龍】