生物の伴侶選びでは雌が雄を選ぶことが多いと聞く。鹿の雄は立派な角を自慢し、縄張り争いに限らない雄同士の戦いに挑むなど雌に選ばれるために優位な点をアピールする。なぜか?大きな角を持つ強い雄は確かに生存競争に有利だ。しかしそれだけだろうか?過剰に巨大な角は外敵から逃げるのに不利ではないか。また立派な尾を持つ鳥も、その尾が生存競争に役立つとは思えない。それでも雌が角や尾など優位な形質を求め続けるのは、不利な状況でも生き抜けるDNAの強さを雄に感じたからなのか。
雌は自分の生んだ子(雄)が次世代の雌にも選ばれるよう形質優位な遺伝子を求めるらしい。大きな角や長い尾は生存競争よりも繁殖競争(雌の獲得)に有利であり、子孫繁栄が理由なのだ。そしてそれが何代も続くと、立派な角の遺伝子が子孫達に広まり、結果、角の大きな鹿が世の中に増えることとなる。それが進化の考え方だ。
この事象は投資にも当てはまる。株式等の短期的な値上がりは人気や流行が牽引するものであり、だからこそ人気や流行で値上がりすると予想される株式等を先回りするのが投資だと考えられている。実体ではなく評価の上昇に願いを込めるのが生物の伴侶選びであり投資なのだ。さて鹿の件だが、明らかに生存不利になるまで角の巨大化が進むと説いたのがフィッシャーのランナウェイ仮説だ。株価に当てはめて考えると、実体とかけ離れて値上がりする企業の株価は、一見異常だと感じても“明らかに高すぎる”状態となるまで誰も止められない、となる。その後は角の巨大化が止まるだけで済まず、明らかに安すぎる株価になるまで下がっていくというのが鹿との違いだが。
進化について色々と調べていた際に長期投資に役立つ考え方を発見した。何を読んだかは忘れたが、そこには、検証できない環境下;例えば器具などが揃わない過去の時代において、または地球上の酸素を全て抜くなどの原理的・人を殺めるなど倫理的な事象について、更には結果が先にある未来について思案を巡らせる場合に有効なのが思考実験だと書かれていた記憶がある。
長期投資は“広く、深く、遠く”考えるものだ。イメージする未来への筋道を論理的に構築することが求められる。過程で、思考の沼から抜け出せず気が狂いそうになることもあれば、突然の閃きに論理が繋がる喜びに浸ることもある。直感から入るもよし、データ解析から始めるもよし、とにかく自らの思考で行動の起点を生みだすことが重要なのだ。
インターネットに常時接続できる環境が整い、不明なことを調べる速度が格段に上がった。ネット上に溢れる膨大な情報から適切なものを瞬時に見つける、または様々な情報を束ね最適解を出すことは、現代において必要不可欠な能力といえよう。AI投資もそれを土台に人気投票を行うことだ。他方、与えられた少ない情報から思考を巡らせ、蓄積した知識に推と論を掛け合わせて見出した答えは誰も持っていない情報となる。
絶対価値の上昇からリターンを狙う我々長期投資家は、自らの思考で価値を生み続ける鹿を見つけなければならない。見つけた鹿の繁栄を応援するのも長期投資の役割だ。人気や流行に投資をするのは虚業であり、生物における人気投票は進化をもたらすものの、進化が存在しない投資における人気投票は、愚行を繰り返す行為にしかならないのだ。
【代表取締役社長 澤上 龍】