およそ3年半前、企業のCSR担当者が集まる会に講師として呼ばれた時のこと。30名程度の前で、長期投資家の視点から次のようなことを話した。「持続性のある本業は自ずとCSRの要素を含んでいる。CSRは本業と切り離して考えるものではない。100年企業になるためには、本業が世の中に求められ続けることが必要だ。故に本業が社会課題を解決しているかどうか考えるべし。言わば、CSR部門がなくなることがゴールかもしれない」。
CSRとは企業の社会的責任を指し、“社会に対する良いこと”を専門的に考える人たちがCSR担当者だ。“社会に対する良いこと”と表現したのは、CSRへの取り組みに発展余地があると思うからである。かつて同テーマの祭典に参加したことがあるが、協賛費は出すも祭典に出席せずブースを空にする企業、出席しても身内で話し続ける企業が存在した。彼らは“CSRやっています”と義務感から体裁を整えているに過ぎない。またはCSRをPR目的にしているだけだ。無論、担当者として見えない価値に奔走するよりも、他部署の目もあり、生産活動であるPRに傾注するのは理解できる。例えば、国内で小売業を営む企業がアジアで植樹活動をしているとする。“御社がなぜ植樹?”との質問には答えられないだろう。“植樹をしている”という実績が担当者として欲しいのだ。良いことであるが少し違う。
上述の“目に見えない価値”を言い換えれば、昨今だと非財務情報がそれに当てはまるだろうか。非財務情報の重要性は年々増しているが、本業と統合できていないのが現状であり、企業としての悩みである。そもそも企業の発行する統合レポートが投資家または評価機関向けに収まっているようであれば、まだ道半ばだ。
非財務情報は、企業が将来に生みだす価値に直結しなければ意味がない。単に“社会に対する良いこと”をやっているだけでは持続性が確保できない。英語で非財務情報をNon-financial informationと書くようだが、どこかでPre-financial informationと表現するのを見たことがある。まさにその通り。いずれの財務情報に帰結してこそ意味をなす。SDGs※やパリ協定など、地球規模で物事を考える風潮が主流となりつつある。PR目的だろうと、時流に乗らないよりは乗ったほうが社会にとっては良い。しかしコミットしてこそ世の中は真に変わる。機関投資家もレピュテーションを気にしての行動では意識が低い。非財務情報が財務情報になっていく過程を応援するのが本来の投資ではないか。
冒頭のCSR部門向けの講義の後、次の質問が返ってきた。「当社は100年企業ですが、私を含む社員は会社のやっていることに不満を持っています。本業が社会を良くするなら、なぜ社員の不満は残るのでしょうか?」
社員が本業に夢や希望を抱けなければ持続性は得られない。であれば、社員側も条件や職種だけでなく、理念の面で会社を選ばなければならないだろう。働きやすさなどのベネフィットだけに喜ぶのではなく、その非財務活動が本業に熱を与えるか否かが問われていると思う。
2018.9.20記【代表取締役社長 澤上 龍】
※SDGs=持続可能な開発目標。2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標