未経験者にとって資産運用を始めるハードルは高い。その点、①景気判断や企業選別をプロが行う ②1万円程度の少額から運用ができる ③(値動きを除き)資産が法律で守られる投資信託(ファンド)は優れた仕組みと言えよう。加えてファンド内の売買にはキャピタルゲイン税がかからず、再投資による複利効果を発揮できるのも大きな利点だ。しかし前月にも述べた通り、ファンドが金融機関のための商品として扱われているという業界の構造的な問題があり、せっかくの優れた仕組みも機能していない。金融庁などのリーダーシップにより業界は改善傾向にあるものの、まだ道半ばというのが実情なのだ。さて今回はそこから派生するもう一つの問題点“なぜ運用成績が出にくいのか”について考えたい。
ファンドマネージャー(FM)を担う人物は総じて優秀である。そして彼らは皆、良い成績を出そうと必死に戦っている。しかし成績を出せない…いや、出させてもらえないのだ。図1を見てもらいたい。波線を相場動向とした場合、FMが考える買い時は赤の割安時となる。当然、売り時は青で示したところだ。では個人がファンドに投資する時期はどこか? 残念ながら青い時がピークなのだ。
想像してほしい。上昇相場が始まり、ご近所さんや同僚が投資の話を始めたら、皆も「お隣さんも始めた…俺もやるか」となるのではないか。そういう時期はTVや新聞、雑誌などに投資運用の情報が溢れる。販売会社の視点はどうか。個人が自ら投資運用に関する情報を探し始める青い時は、ファンドを買わせる(手数料を稼ぐ)好機とばかり新ファンドの組成や販売促進策に励む。まさに需要と供給が盛り上がる絶頂期であり、すべては強い相場が正当性を担保してしまうのだ。しかし上がった相場はいつか下がる。そこで個人は言う。「ファンドなど買わなければよかった」「やはり投資はギャンブルだ」と。そして損切りの名の下にファンドを売却するのだ。やがて底を打ち再び上昇相場が来ると「今回の相場は違う」とばかりに飛びつき、販売会社も「次こそは」と煽る。常にこの繰り返しだ。
この一連の動きをFM視点で見たらどうか。青い時に販売会社がファンドを売りまくると、FMは割高感を認識しつつも集まった資金を投資に振り向けざるを得ない。個人がリスクをとったのにファンドが現金で保有しているなどあり得ないからだ。その後、下げ相場に突入するとFMはいよいよ買い準備に入る。しかし個人から資金の引き揚げにあい、買いどころか安値で保有株を売って現金を返さなければならなくなる。割安で仕込めずに次の上昇相場を迎えることになるのだ。ただし次の相場で販売会社が既存のファンドを売ってくれるとは限らず、むしろ新しいファンドの設定を促されるだろう。すなわちFMはお役御免となってしまう。
絶対リターンを狙うアクティブファンドは、個人顧客と足並みを揃え相場を乗り越えていかないと成績に繋がらない。それができないのは前回指摘した問題と同様、販売会社と運用会社が別の論理で動いていることに起因する。そしてこの問題があるが故に「相場にも勝てないなら低コストのインデックスファンドにしよう」という論理がまかり通ってしまうのだ。
なお直販体制を貫くさわかみファンドは、おかげ様で20年という長期間をファンド仲間の皆さまとご一緒させていただいた。図2は平均株価と比較したグラフだが(ベンチマークではない)、さわかみファンドは相場の谷を越えるたびにリターンを積み上げているのが分かるだろう。これは運用の腕だけではなく、まさに投資信託の本来あるべき力を発揮した結果なのだ。
次回は少し目線を変え、政府の目論みについて触れていきたい。そしてその後、最後のテーマとなる“投資”へと進む。
【2019.9.4記】 代表取締役社長 澤上 龍