皆さんは、こんなニュースを見たことはありますか?
・水道管老朽化による事故が年1,000件以上
・地球温暖化による豪雨は約30年前の約1.4倍に増加
・5年で水道料金を値上げした自治体は全国の15%
このままでは現在の水道網を維持できないという社会課題を日本は抱えているのです。
日本の水道事業は、1887年に横浜で初めて近代水道が布設されたことから始まりました。これは当時、外国の窓口であった港湾都市を中心に、海外から持ち込まれるコレラなどの水を介して広がる伝染病が蔓延するのを防ぐことを目的としたものでした。横浜に続いて、1889年に函館、1891年に長崎と、港湾都市を中心に次々と水道が整備されていきました。その後二回にわたる大戦の影響で水道事業の整備が停滞したことで、1958年時点では普及率約41%にとどまっていましたが、高度経済成長期に飛躍的な拡張をとげることになります。現在では普及率は97.9%に達し、「国民皆水道」がほぼ実現されています。この水道管路は法定耐用年数が40年なのですが、高度経済成長期に整備された施設の更新時期を迎えているものの、地方自治体の財政難等により更新が進んでいません。今後、管路の老朽化はますます進むと見込まれます。水道統計によると、管路経年化率(法定耐用年数を超えた管路延長/管路総延長×100)は年々上昇しており、2016年度では14.8%にも上ります。一方で管路更新率(更新された管路延長/管路総延長×100)はわずか0.75%なので、単純に計算すると、全ての管路を更新するのに約130年もかかることになってしまいます。また日本は地震の多い国ですが、水道施設における耐震化の状況は、基幹管路が36.0%、浄水施設が23.4%、配水池が49.7%と、なかなか進んでいないのが現状です。
そのような中で上下水道の料金改定が行われています。2016年度には全国1,263団体のうち47団体が料金改定を行っており、うち最も改定率の高かった団体は、48.5%も料金が上昇しています。この背景には、日本の水道事業の経営が悪化していることが挙げられます。日本の上下水道事業の料金回収率(供給単価/給水原価×100)が100%未満、つまり給水原価が供給単価を上回っている(=原価割れしている)水道事業体は全体の33%にもなります。また、給水人口別では人口が少ない事業体ほど経営状況が悪く、1万人未満の事業体においては半分近くが100%未満(原価割れ)です。さらに水道事業の職員数は、30年前に比べて約3割も減少しています。この点についても、小規模事業ほど職員が少なくなっていて、給水人口1万人未満の小規模事業体は、平均3人の職員で水道事業を運営しています。つまり、今後は小規模事業体の経営基盤や技術基盤を強化するために、近隣水道事業との「広域化」などにより水道事業を支える体制を構築する必要があると考えられます。
このような状況で、日本の上下水道の基盤強化を目的として2018年12月に水道法改正案が国会で可決・成立しました。改正のポイントは「広域化」と「官民連携」の推進です。広域化の取り組みとしては従来の市町村任せを改め、県主導で広域連携を推進することとなりました。各都道府県に対し、「水道広域化推進プラン」を2022年度末までに取りまとめるよう要請しています。具体例としては、広島県では広域連携を行うことで水道原価の上昇分を14%抑えられるシミュレーションをしています。また官民連携とは民間の技術やノウハウを活用することを指します。改正水道法では、自治体が水道施設の運営権を民間企業に委ねる「コンセッション」制度の仕組みを規定しました。例えば熊本県荒尾市では、経営権は荒尾市が維持したままで、営業統括や設計建設統括、維持管理統括等を民間に包括委託することを決定しています。官民連携で先行している例としては、横浜市の川井浄水場の再整備です。日本初の浄水場施設全体のPFI(Private Finance Initiative、民間の資金を利用して行う手法)事業です。これにより従来の約半分の面積で処理水量1.6倍の新施設を建設しました。維持管理費も電気代4割減、人員7割減、薬品使用料4割減など大幅に削減できています。
水道法改正にあたり、「日本の水道を民間に任せて安全・安心を保てるのか?」という心配の声もあると聞きます。しかし水道水は水道法で51項目の水質基準が設けられており、民間委託された場合でもそれに従うので水質が低下することはありません。また、「民間委託すると水道料金は高騰するのか?」という心配もされるかと思いますが、人口減少が進むなか、老朽化や災害リスク対策が必要なため値上げは基本的に避けられない状況です。しかし改正水道法により民間の活用が進むため、値上げ幅を抑えることができます。民間委託によって水道業務が効率化できるからです。過去に官民連携した事例では6~20%のコストダウンを実現しています。
日本の人口は40年後には約3割も減少すると言われています。これに伴い、水道事業の収入の基礎となる水需要も約4割減少すると試算されています。そのような今だからこそ官と民が協力し合い、より良い日本に変えていく、そんな明るい未来を私は信じています。
【アナリスト 中川 真紀子】