日本では歴史的なイベントである東京オリンピックが開催される令和2年。その年明け早々、最高投資責任者兼ファンドマネージャーの草刈、アナリストの大岩とともに、1月7日から米国ネバダ州のラスベガスで開催されたCES(シーイーエス)を視察しました。
CESは1967年に第1回が開催され、長らく世界最大規模の家電・技術の見本市として続いてきました。1994年まではラスベガスでのWinner Consumer Electronics(WCES)とシカゴでのSummer Consumer Electronics Show(SCES)の年2回開かれていましたが、1995年からはラスベガスでの年1回開催に変更されています。普段はカジノで賑わっている煌びやかなホテルの一室でさえも、この時ばかりは世界のテクノロジー企業による商談スペースに様変わりします。
同祭典ではこれまでにテクノロジー産業のマイルストーンとして数々の最先端な技術や製品が発表されてきました。古くはコンピューターマウス(1968年)から始まり、ビデオカセットレコーダー(1970)、パーソナルコンピュータ(1975)、CDプレーヤー(1982)、DVDプレーヤー(1997)、ハイビジョンテレビ(1998)、携帯電話・デジタルカメラ(2002)など、これらは私たちの生活に変化をもたらしてきました。
主役はモビリティ
「モビリティは今後10年のメガトレンドである」。そのように考えている企業が多いのでしょう。既存の完成車メーカーや大手部品メーカーだけでなく、IT企業や民生機器企業などあらゆる業界からの自動車関連の出展が目立ちました。また空飛ぶ車も大々的に出展されるなどモビリティ業界の変革期にあると改めて感じました。
各社各様の展示が披露される中で、とりわけ参加者の注目を集めていた(たまたまその時間帯に混雑していた可能性あり)のが、SONYの「VISION-S」とAmazonが出資しているRivianの電気自動車でした。
VISION-Sは33個のセンサーやカメラによる安心・安全、そして360度の立体音響や大きなディスプレイによる車内エンタメの快適さなど、SONYらしさを追求した仕上がりになっていました。また開発・製造に至っては、部品大手ボッシュや車体製造マグナなどの力を借り、わずか数年で一から自動車を作り上げてしまったことにも驚きです。
Rivianは4つのモータによる高い駆動力と米国で人気の高いピックアップトラックであることから消費者からの注目度も高いのでしょう。そして今回はそこにAlexaを搭載したことが大きな特徴でした。Alexaは他にも高級車であるランボルギーニにも搭載され、CESに展示されていました。車内空間で最良のデジタル体験を提供するうえで音声アシスタントの役割は高まっていくと感じます。
電気自動車は各国の定める環境規制に対応するための手段として、完成車メーカーが開発に一層注力しています。しかしながら一歩間違えれば、「環境規制に対応するためだけの商品」と消費者に捉えられてしまう危うさがあるように近頃感じます。その点で、今回のSONYやAmazonの出展は自社のアイデンティティを自動車で表現しているからこそ、ユーザーにとって大変魅力的に映ったのではないでしょうか。
またモビリティ以外では今年は例年以上にスタートアップの出展が多かったようです。実際に取材した中でもユニークな技術がいくつかありました。例えば、道路にセンサーを埋め込むことで交通状況を把握するシステムを提供するイギリス企業や悪天候の影響を受けにくいカメラシステムを提供するイスラエル企業、機械が人間のように見えることを可能にするソリューションを提供するフランス企業などです。これらは非常に実用的であり、すでに政府や大手から仕事を請け負っていることから、今後の事業拡大に期待が持てました。
景気は循環するが、イノベーションは前進する
これが最後にお伝えしたいメッセージです。景気は人々がどれだけ努力をしたところで循環するものです。新元号2年目といえば、昭和2年は昭和金融恐慌、平成2年には日本経済のバブル崩壊と大きなイベントが発生しています。今年どうなるかは分かりませんが、今後も様々な出来事をきっかけに良くも悪くも大きな景気の波がやってくることはほぼ確実でしょう。しかしながらイノベーションはただ循環するものではありません。前進するものです。私は世界のエンジニアを尊重しているからこそ、人類がより豊かな生活を望み続ける限り、イノベーションによってそれを実現してくれると信じています。CESで多くの企業の取り組みを目の当たりにしたことで、その想いをより一層強くしました。
【シニアアナリスト 坂本 琢磨】