Sawakami Asset Management Inc.

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トレーダーである私は、ファンド仲間との懇親会等で「さわかみファンドの注文は低い価格に指値注文※1を出しずっと待つのですか?」と質問を受けることが多々あります。私がトレーダーに着任して1年になりますが、その前の私も実は同じように考えていました。本記事ではそのイメージを変え、今後の目指すべき姿について示したいと思います。
さわかみファンドのトレーディングは、狙った株価に注文を出して完了といった単純明快なものではありません。これらの質問の背景は、おそらく安いところで応援買いを入れるという運用哲学を、成行注文※2と指値注文の利用に留まる個人の株式取引形態から考えてしまうからだと思います。

さわかみファンドの注文一例

先ず、成行注文は利用しません。その理由は約定価格をコントロールできないことと、数量が多い場合に極端に価格を変動させてしまうことからです。よって基本的には指値注文を利用します。特に株価の節目等で明らかに注文が重なっている場合は、注文成立のルールで価格優先・時間優先の原則があり、時間優先の注文成立を使って、狙った株価に並ぶためです。そして現在最も利用しているのは、アルゴリズムを使った注文です。特定の規則性を持って注文を出すプログラムを利用して注文を出しています。

そもそも、なぜアルゴリズムを使うのか?

東証の取引主体別売買動向を見ると、個人とそれ以外の機関投資家(投資信託、信託銀行、生保、銀行等の金融業)や事業法人に大別されます。さわかみファンドに限らず大きなお金を運用する機関投資家のトレーディングはアルゴリズムを利用したものが中心となっています。私が考えるアルゴリズムを利用する理由は3つです。

【理由1】アルゴリズムを利用することで、人の手では実現出来ない注文ができるから。

指定した価格の反対注文が現れたら瞬時に買い注文または売り注文(※以降、買いを例にして説明します)を出すといった人の目と手では追いつかない取引が実現できたり、数量の大きい注文を小分けして時間分散させた取引ができたりします。10,000株の取引を行うのに単元が100株なら100回注文を出すことになります。取引時間が前場と後場を合わせて5時間(300分)として、3分に一回注文を出す執行計画をつくったら、手動で不可能ではないでしょうが、トレーダー1人で何社も並行して売買するのは厳しいと考えます。

【理由2】板情報に注文を晒さないようにできるから。

指定した株価になったら、出た売り注文にだけ買いを入れる事ができる。約定する分だけ注文を出すことができるので、板情報に大きな注文を入れてどの価格でどれくらいの数量を取引したいのかという注文を隠すことで、先回りされ不利な取引を仕掛けられない様になります。

【理由3】マーケットインパクトを軽減させるため。

例えば買いの場合に出来高やそれに対する関与率を考慮しないと、自らの注文で株価を吊りあげてしまい、想定よりも取得価格が割高になるといった不利が起きてしまいます。アルゴリズムを利用することで、数量の多い注文を行う場合でもマーケットインパクトを軽減し、自らの注文で株価に影響を与えない注文を出すことができます。

以上のような理由で、アルゴリズムトレードは機関投資家にとってメリットが多いため利用されていると考えます。しかしそのアルゴリズムは各証券ブローカーが提供しており、言わば既製品のアルゴリズムを利用するために私は使いにくさを感じています。なぜなら、個々のトレーダーは最適なトレードを目指すためにアルゴリズムを利用しますが、市場が大きく動くような時に似たような動作をするアルコリズムに偏り、動作が重なり合うことで値動きがさらに大きくなってしまうからです。個別には最適だった選択が全体では取引し難い状況にしてしまうという合成の誤謬が起きてしまうからです。

さわかみファンドでは、平常時だけではなく年に2~3度ある市場が大きく変動するような時に注文を出すことがあります。そのような時は売り気配と買い気配が大きく乖離していたり、値動きが素早く目では追いにくかったりする状況です。ところがそのような状況を想定したアルゴリズムは既製品では提供されていません。そのようなアルゴリズムは、値動きの大きい時に本腰を入れて買えるファンドだからこそ必要とされる特殊なものとなってしまうからです。さわかみファンド専用のアルゴリズムはどこにもないので、私が研究し開発をするしかないと考えています。

最後に、なぜ私がこのような野望を考えているかというと、シンプルに1円でも有利なトレードの実現を目指すためです。長期のスケールで見れば日々の小さな利益の積み重ねが大きなリターンに繋がり、それが世の中を変えることになると考えるからです。

※1:指値注文
「指定した価格よりも有利なら買う」と金額指定する注文方法です。希望する価格で売買できますが、条件に合った売り注文がなければ取引が成立しません。取引の成立よりも値段を優先する注文方法です。

※2:成行注文
「とにかく買いたい」と価格を指定しない注文方法です。取引が成立しやすくなりますが、不利な価格で取引が成立する可能性があります。価格よりも取引の成立を優先する注文方法です。

【トレーダー 新野 栄一】

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