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目下私が追い求めてきた職業人としての理想は、ファンドを支える賢明なるアナリストでありたいということです。そのために日頃から様々な興味や切り口を持って賢明になるべく励んでおりますが、今回はその中の一つ「失敗を“科学的”に理解する」というテーマついて掘り下げることといたします。
実はこのテーマについては長い間温めるだけに留まっていました。しかし今年に入り、金曜勉強会※のテーマを検討している際に、故野村克也氏の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という名言が私の目に飛び込んできたことに背中を押されました。

今回の成果

早速、今回の勉強において血肉になったところをご紹介いたします。まず基礎段階では“科学的”とは決して完全なものではなく、仮説と検証の繰り返しで再現性を高めていくものであるとの定義を再認識いたしました。この教示は、勉強中に明確な公式に辿り着けるはずとの勘違いから焦燥する私を救ってくれました。

さらにテーマに沿った内容としては以下のような学びがありました。

1. 起きてしまった失敗に対して、なぜそのようになったのかを突き詰め、後にはその分析内容を読まれるかたちにまとめて広く共有することが重要。
2. 大きな失敗を避けるためには、小さな失敗(挑戦)を繰り返ししておくことが有効であり、急な環境の変化に対しても強くなれる。
3. 上記のような仕組みを文化として醸成していくためには、憂事より大儀を優先できるようなマインドが組織に根付いているかが大切。

何をもってして失敗とするかという認識には差がありますが、失敗の研究者たちの姿勢は失敗がゼロになる理想を求めるのではなく、失敗を利用していかに前進(同じことを繰り返さない)するかに集約されていました。

とは言え人は同じような失敗を繰り返す

先述のように私たちは失敗を糧に常に前進できるはずなのに、それを阻む障害が私たちの内面で外向きにも内向きにも同時に存在していることを学びました。
外向きに存在するのは“シャーデンフロイデ”と呼ばれる感情です。ヒトが持つ成功者のちょっとした失敗を糾弾することで喜びに浸る感情で、脳内ホルモンの分泌に起因していることが報告されています。私たちは知らず知らずのうちに、このような脳内物質からの快感に支配され、本能的に失敗に対する犯人捜しを優先してしまいます。昨今の“炎上”が起こる燃料とも言えるでしょうか。それにより、大切な情報を得られる機会を逃すことがあります。
内向きに存在するのは“認知的不協和”を解消してしまう個人としての振る舞いです。ヒトには自身の中に矛盾する認知を抱えた場合に、自分に都合の良い方に態度や行動を変えてしまう振る舞いが確認されています。“反省しない”は個人の性質と思いがちですが、実験において二つの無差別なグループのうち大きな投資をした方が、その先で得たモノの価値が低くても無意識に肯定しようとする結果が示されています。ここからヒトがいかに冷静かつ賢明なつもりでいても、事実を見る目が歪むことからは逃れられないということが判ります。
このような失敗を失敗として認識できない態度や、失敗を上手く利用することを邪魔する感情が同じ失敗を繰り返してしまうジレンマとして私たちの中に存在しています。

賢明なるアナリストから賢明なる隣人へ

今回の“失敗に学ぶ”というテーマを掘り下げる中で、これまでの弊社運用調査部での私の議論の方向性は概ね間違っていなかったように振り返りました。
例えば、新規技術の事業化に苦戦しながらもその長い歴史の中で後輩のために研究開発の失敗事例も全てライブラリー化しているとした東レを信頼した投資判断。大きな失敗後の態度を評価して投資判断を変えた旭化成とタカタの明暗がその後ハッキリと別れたことなどが思い起こされます。
また実はそれらは私の思慮というよりも、長期投資家に支えられたファンド内にいるからこその意思決定であることにも思い至りました。つまり投資家が長期の視点であるほど、自己に内在するジレンマの影響を回避してその企業の行動を冷静に評価できることや、さらに企業側も大儀や成長意欲が高く長期視点であるほど、失敗から学ぶ態度がより真摯で科学的になっている場合が多いことなど、長期投資と失敗を糧にできる企業の相性の良さに改めて気付く素晴らしい機会にもなりました。
最後に私事となりますが、筆者はこの度、能動的に失敗を獲得すべく、さわかみ投信を離れて新たな挑戦をすることになりました。賢明なるアナリストへの道は賢明なる投資家さらには賢明なる隣人へと繋がっていると達観した信念の元に、これからも広く世の中の健全な発展に貢献できる賢明な存在であり続けたいと思います。

※アナリスト公開勉強会、弊社会議室にて運用調査部員が日々調査・研究している内容を発表する会。どなたでも無料で参加できます。

 

【アナリスト 斉藤 真】

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