Sawakami Asset Management Inc.

CONTENTS
# タグリスト

新型コロナウイルスは社会を大きく変えた。政変や戦争など激動時に見られる変化の強制である。無論、常識の多くが蒸発した。後講釈は学者の重要な仕事ではあるが、投資家の仕事ではない。市場では行動こそ全て、後出しジャンケンは通用しないのだ。また、さも従前より知っていたかのような論調を繰り広げ変化以前を否定するのは見苦しい。機を見るに敏とは変化の早い現代においてこそ大切な柔軟性を指し、然るに自己否定を受け入れ堂々と変説すればよい。

例えば経営のあり方について。低金利下での借入による株主還元策が是とされ、多額の手元資金を保持する企業が経営の非効率性を訴えられたのは僅か半年程度前のこと。ROE重視の市場ブームは世界的な金余りが齎した一つであるが、それが新型ウイルスという突然且つ未曾有の事態を境に善悪が逆転した。今やキャッシュ・イズ・キングであり、高レバレッジ経営への批判を投資家がこぼす。まさに変説である。我々長期投資家はブームには乗らず常に本質に投資をする。よって以前より変化後を是としてきたため、ようやく正しい方向に戻ったと言うだろう。

ここで敢えて自己否定をしてみたい。企業を応援するのが長期投資とは言うものの、投資運用の世界では全てが結果に跪く。後出しジャンケンであろうと、ブームに乗ってより高い成績を出す方が正義ではないのか。次に自己防衛をする。変説だらけの日和見な投資は、成績・精神共に市場依存度が増し再現性が確保できない。つまり“運”の要素が強く、投資で成すべき生き様を見失う恐れがある。

話は変わり、外出自粛によってドメスティック・バイオレンスが増えているとのこと。避難用の宿泊施設も出現するほどだ。家族との時間を見直す良い機会ともなり得る今、むしろ悪化している事実があるとはなんとも寂しい。ウイルス同様に蔓延したストレスが原因だろう。直接的な理由は種々あるが、根源的には変化を受け入れられないことによるものだ。ストレス発散の対象は目の前にいる人から始まり、外へと広がっていく。呑気にレジャーを楽しむ人を報道で見ればSNSで叩く。その投稿が負のエネルギーを引きつけ大火を起こし、特定できる対象者であれば精神崩壊まで追い込む。卑近な例では、マスクなしの外出者や公園の子連れ家族を邪険に扱う。

今、我々は変化を受け入れなければならない。比較も嫉妬も恐れも不要、自らが望む方向に“生き方”を調整しよう。しかし“生き様”には軸を持ちたい。道順である“HOW”は変えようがあるも、人生の終着駅である“WHY”がブレてはいけない。苦節の今、様々な人による「頑張ろう」という前向きなメッセージが溢れているではないか。明るい未来を否定する者はいない。懺悔的な付和雷同ではなく、あり余ったエネルギー全てをポジティブなかたちで未来に向けたらどうか? どうせ未来は自分たちのもの、自ら関与すべきであり、自らの生き様に従い前進を続けよう。弊社創業者の澤上篤人の口癖である「お先にごめんね」は、そういうことだ。比べるのでも後ろを振り返るのでもなく「動ける人から動こう、先に良い方向を見せてやれば後から人はついてくる」だ。さわかみ投信も変化を恐れず、むしろこれから速度を上げて歩んでいく。しかし生き様は変えない。ギャンブルにも未来づくりにもなり得る投資において、我々は生き様を追求し続ける。

【2020.5.7記】 代表取締役社長 澤上 龍

関連記事
RELATED

「澤上龍の先憂後楽」の他の記事
OTHER