新型コロナ禍で感じた社会システム変革の必要性
「変化の兆しは俺たちの中にある」。4か月前に運用調査部に配属されたばかりの私が、「世の中の変化の兆しはどういうところに現れるのか?」と投げた問いに対して、会長の澤上が放った一言だ。その衝撃的な一言に対して私は絶句し、辛うじて苦笑いを浮かべたことをここに告白したい。ところがどうだろうか。それから4か月の間に、新型コロナで世界は大きく様変わりした。今回の羅針盤は、「どこにも答えが転がっていない」アフターコロナに関し、その変化の兆しを探ってみたい。
GWまでの休校の延長により、有給休暇を多用して何とかやり繰りしてきた子供の問題が再浮上した。糖尿病で昨年、足の指を切断した父がいる私の実家へコロナ流行地から子供を預けるのは憚られた。近くに住む妻の両親は老々介護で手一杯である。そこへ、小学校低学年の娘を送り込んだらどうなるかは言うまでもない。世界で最も高齢化が進み、都市化による核家族化が進む日本。通所介護サービスや学童保育等の様々なサービスで支えているが、支え手にも家庭がある。今回の新型コロナはサービス利用者もサービス提供者もお互いがギリギリで成り立っている社会であることを教えてくれた。親が子供を看る、子供が親を看る。私たちの暮らしを持続させていくためには、そういう当たり前のことができる社会へシステムの変革が必要であることを痛感したのである。
リモートワークで見えてきたデジタルベースの兆し
政府による緊急事態宣言が発令され、企業の対応に大きな変化が生まれた。これまで、一部の先進的な企業が取り入れていたリモートワークを各社が一斉に導入しだしたのである。そこで活躍したのがクラウドで提供される様々なビジネスサービスだ。リモート会議システムやチャットを使った同僚とのディスカッション、取引先企業とのプロジェクト共有、在宅での顧客応対、遠隔でのセールス活動等、挙げればキリがないが、それらを活用することでかなりの職種の方が出社せずに業務を実施できた。新型コロナで失った多くの犠牲は取り戻すことができないが、今回の件でレガシーな働き方の日本企業にとってパラダイムシフトとなり、リモートワークが導入されたことは明るい兆しだ。デジタルベースの働き方は時間や場所といった制約を取り払ってくれるため、育児や介護により離職を余儀なくされる方への解決策にもなる。一方で、デジタルでは微妙な空気を読みにくいという指摘もあるが、逆に無用な遠慮や気遣いを取り払ってくれるため若い世代の持っている意見や感覚を反映させるチャンスである。取り入れる企業の意識次第でプラスにできるはずだ。
Digital Transformation (DX)のポイントは
デジタル・ネイティブ世代と脱PDCA
経団連は先日、提言「Digital Transformation (DX)※1」を公表した。提言の中にあった、今後のDX推進において必要となる“起承転結”人材について考えてみたい。私は1970年代終わりの生まれであり、大学からPCを触り始めた世代である。私のような似非デジタル世代から生まれるのはせいぜいアナログのデジタル化であり、期待されるような“起”の発想は生まれないだろう。しかしミレニアル世代以降は、生まれた頃からインターネット環境があるデジタル・ネイティブ世代である。既存のアナログベースのサービスやビジネス、業務フローは彼らを中心にことごとく見直され、アフターコロナの世界は急速にデジタルシフトが進むだろう。例えば、既存のコールセンター業務はデジタル・ネイティブ世代の台頭でいずれなくなるだろう。彼らはネットで知り、ネットで探し、ネットで買う世代である。彼らのデジタル化された消費行動によりカスタマーエクスペリエンス(CX)視点が高まるからである。これまで多くの企業において消費者との接点は“販売”するタイミングのみであった。そのため、市場調査や顧客窓口において顧客ニーズや不満を見つける必要があった。しかし、デジタル化で顧客の動きはすべて“見える化”される。これにより、家電、自動車やバイク、自転車に至るまで、いつ、どのように使っているか、仕様通りに正常に動いているかという詳細な利用情報や稼働情報がデジタルでメーカーと共有される。メーカーはデジタル情報をベースに、アップグレードや故障対応を有償プログラムで提供する。こちらが何もしなくても、必要なことは勝手に察知してリコメンドしてくれるのである。こういった情報が保険会社と共有されれば、運転履歴から優良ドライバーと判定されることで自動車保険の保険料が自動的に優遇される。また配車サービスと連携されれば、優良ドライバーとして登録されサービス提供時の単価上昇に繋がる。このように、自分の運転履歴がデジタル化されることで便益が提供され、安全運転のインセンティブが働き交通マナーの向上&交通事故の減少という社会的効果が見込める。実際に中国ではこのようなデジタル履歴をベースとした信用構築が進んでいる。国際的に取り残されないために、社会はデジタルベースで当たり前を疑い、ゼロベースで新しい発想ができるデジタル・ネイティブ世代の活用を進めるべきである。
さらに企業はこれまでの予算や計画を重んじる企業文化を変革させなければならない。デジタル化された社会は、人々の態度変容や行動変化の兆しがビッグデータを基に定量的に解析できる。従来のような予算制度をベースとしたPDCAから脱却し、OODAループ※2にシフトすべきだ。前述した運転履歴のようなビッグデータを観察し、変化の兆しを捉えたなら、自社のリソースを使ってできることとできないことを迅速に仕分け意思決定し、柔軟にシステムやサービスを変更できるように組織運営の見直しを図らなければならない。そしてデジタルからリアルに繋がる部分では、デジタルだけでは解決できない社内各所との調整や異業種との連携、官庁との許認可交渉といった事業推進力が必要となる。これは40代以上で社内に人脈があり、これまでの様々な経験を通じて事業計画を立てる力があり、実際にプロセスにするための能力を持っているミドルが積極的に担うべきだ。DXを機会に先端企業についていくことができるのは、デジタル・ネイティブ世代の感性と既存のミドルのビジネス力を融合することができる企業だ。
新型コロナで強いられた自粛生活で他者との交わりが制限される中、多くの人が精神的に満たされない感情を体感した。外出自粛とリモートワークをきっかけに、様々な社会システムはアナログからデジタルへシフトし、豊かさの尺度も変わっていくだろう。アナリストとして、今後もこのような変化の兆しから次の世の中に必要とされる企業を調査しさわかみファンドに組み入れていきたい。
【アナリスト 西島 国太郎】
※1:一般社団法人 日本経済団体連合会 提言「Digital Transformation (DX)」~価値の協創で未来をひらく~より
※2:OODAループ ~ 観察(Observe)→仮説構築(Orient)→意思決定(Decide)→行動(Act)を繰り返すことで変化に対して柔軟な意思決定を行うスタイル。PDCAサイクルが生産工程や営業活動等の既存のビジネスフローの効率改善等の業務改善を目的とするのに対して、OODA ループは工程が明確でないものに対して素早く意思決定を行う仕組みのこと。