Sawakami Asset Management Inc.

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「一日の時間配分を教えてください」。十数年前に某電機メーカーの社長にそう尋ねたことがある。当時の同社は業績悪化に苦しんでおり、投資家からの信頼回復に躍起になっていたからだ。社長の重要な仕事の一つに投資家(株主)への説明責任があるが、なんと一日の4割をそれに充てていた同社社長、さすがに筆者は「それでは本業の舵取りはどなたが担っているのですか?」と聞かざるを得なくなった。かつて筆者が様々な企業の社長面談をした際、最後に定例の如く聞いた質問がある。「御社はなぜ上場しているのですか」。一般的な回答はさておき上場意義の部分に踏み込むと、8割以上の社長が「就任時以前から上場していたので考えたこともない」と答えたものだ。この傾向は今なお変わっていないだろう。

株式上場は資金調達を目的に行うのが一般的だ。しかし既に社会認知度も高く、資金調達不要のキャッシュリッチ企業が上場を維持するのには何の意味があるのだろうか? 「当社は上場企業です」という印籠は令和時代では無効だ。働き方改革同様、栄光への道は一つではない。創業者が上場時に保有株式を売り抜けて財産をつくるというのも分かるが、それも平成時代の神話だろう。これからの時代は上場コストに見合うほどの利があるのか検討する必要がある。上場によって企業に課せられるディスクローズのルール、ステークホルダーからの多重監視効果など健全性の確保は有効であるが、それ以外には、応援株主と共に可能性を追求するといったエンゲージメントを築けない限り、無用な資本の分散は避けるべきなのだ。

かつて、筆者の「上場理由は?」の問いかけに真剣に考え、後日、上場廃止を発表した企業があった(情報公開の公平性から非上場化決定の旨は公式発表直後に電話をいただいた)。その数年後、MBOを研究していた筆者は同社を訪問、非上場化後の状況を伺った。すると「上場時には着手できなかった様々な内部改革ができ、より理想の体制に近づけた」との回答を得た。地域や従業員に愛される企業を目指すという理念を掲げる同社にとって上場の意義はなかったのだ。足元では証券取引所の上場区分再編準備に伴い、非上場化を検討する企業が増えているとのこと。短期的な業績動向に一喜一憂せず、思い切った事業構造の変革に挑めるという理由で、成熟企業を中心にそういった動きが更に増えていきそうだ。

長期投資は本来、価格変動のない非上場企業に投資するのが理想なのかもしれない。長期にわたる配当収入は価格変動に惑わされずに済む。究極的にはバフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイのように企業を永久保有し、それらの事業収益を積み上げていく事業構造が分かりやすい。バークシャー自体が上場しており、その株式を投資家とシェアし多くの人の財産形成目的にも資する方策となっている(バークシャー自体の価格変動に惑わされ、また、投資信託のように無限的に口数(仲間)を増やすことは叶わないが)。

最後に。さわかみ投信は上場を目指すのか? 無論、その気がないのは上述の通り。可能な限り多くのファンド仲間の人生、そして皆が住む未来そのものをおもしろくする一助となるべく、今後も理念のブレ難いオーナー企業を貫いていく方針だ。

【2020.8.21記】 代表取締役社長 澤上 龍

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