澤上篤人の言葉に “お先にごめんね” というフレーズがあります。これは「我先にと自分だけが果実を得るというガツガツではなくて、自立してできる人から動いてみようよ!」という行動を促す教えです。今回は10年前に当社を退職し、“お先にごめんね” を実行中の佐藤さんをご紹介いたします。
「舟遊び みづは」とは
佐藤さんは、東京の水路を周遊する小舟「みづは」を運行しています。この舟は、江戸時代に作られた水路を巡りながら江戸の歴史や文化に触れ、観光客にも都内に住む人にも東京という街を好きになってもらいたいとの想いで作られました。ファンド仲間の皆さまは、東京が水の都であることをご存じですか? 現在は水路のちょうど真上に首都高が走っている所が何か所もあるので非常に分かりにくいのですが、東京には水路が多数あります。私はこれまで3回みづはに乗りましたが、水路から感じる江戸の歴史と令和の高層ビル群の融合が新鮮で、普段見る東京とは別の魅力を感じました。また、水路から大きな川に出るときの解放感はとても気持ちよく、特に隅田川に出てスカイツリーを見たときは、圧倒的な存在感と風の心地よさが相まって自然と涙が出てしまいました。
みづはを作ったきっかけ
佐藤さんは元々洋楽・洋画・アメリカンスタイルを好む、海外への憧れが強い子供でした。結婚後、旦那さまの転勤で念願のアメリカへ。そこで、関心が江戸に向かったそうです。
「アメリカは国としての歴史が浅く、西暦1700年より前の建造物が非常に少ないんです。元々私は古いものが好きだったので古いものが恋しくなり、逆に日本の文化の凄さに気づきました。アメリカ人に浮世絵のことを質問されて答えられなかったことも恥ずかしくて、そこから日本の文化を勉強し始めました。職人の細かい技や日本に根付く伝統文化の素晴らしさを知り、将来日本の文化を見直すような仕事がしたいと漠然と思うようになりました」
佐藤さんの好きな時代劇 “鬼平犯科帳” に、舟が密会や逢引に使われているシーンがあります。舟の使い方が現代と違うものの、いつかこのような舟で東京の水路を巡ることができないかと思うようになりました。当時は舟のビジネスについて全く知識がなく1からのスタートでしたが、帰国後、当社で働く間に何度も会長から聞いた “お先にごめんね” という言葉に触発されて50才になる前に退職、そして3年を経て起業しました。舟は市販のものではイメージに合うものがなくて、舟の設計者を人づてで探し、伊豆の造船所に掛け合って世界でたった一つのオリジナルの舟を製作しました。舟の購入には長期投資の果実が役に立ちました。
自分の思いを仕事に込めて
佐藤さんの舟では、決まったコースの運行以外に “鰻で舟遊び”、“土木工学博士と行く舟遊び”、“舟で琵琶ライブ” といったコラボレーションのイベントがあります。佐藤さん自身がいろんな人のSNSを見たりライブハウスに行って、気になる人に直接声をかけて実現しているそうです。自分の理想のイベントを企画して、気の合うお客さまが集まって、そこで生まれる出会いの数々。佐藤さんのイキイキした姿は、そんな出会いの好循環が作り出しているんだろうなと思いました。そして手土産にもこだわりがあります。老舗に頼んで作ったオリジナルの手ぬぐいは、「家に帰って手ぬぐいを使ってみて、使いやすさを実感してもらいたいなと。そして次回日本橋に来たついでに、手ぬぐいのお店に行ってみようかしらと思ってもらえたら嬉しいです」日本の伝統を伝えたい佐藤さんの気持ちが込められています。
大事なのは足るを知ること
佐藤さんのイキイキした姿の源を探っていると、もう一つの要素が佐藤さんの思考にあることに気がつきました。「企業の成長はベンチャーや大企業にとって必要なことだけど、規模が成長しない企業もあってもいいと思う。私の会社は、中小企業診断士が見たらダメな会社って言うかも知れないけど、私たちは真面目にそして本気で楽しくやってご飯が食べられればいい。人生、足るを知ることが大事だと思っています。たまに“金持ちの道楽だ”と言われることがあるけど、違うんですよね。舟は持っているけど車は軽自動車ですし(笑)」 他人と比較せずに、自分が何をすれば満足かを知ることが大事なのだなと気づきました。
投資をしていると、ともすればどれだけ値上がりするか、どれだけ利回りがでるかといったことに頭がいきがちです。しかしお金は人生の道具で、道具を使ってどのような人生を歩むかの方が大事です。ファンド仲間の皆さまは、長期投資で得たリターンを何にどのように使われますか? 私もこれを機にお金の使い道を真剣に考えてみたいと思います。
(情報システム部 江藤)
佐藤 美穂様(写真左)
元さわかみ投信社員、現株式会社フローティングライフ代表取締役。「舟遊びみづは」という屋号で東京の水路を周遊する最大12人乗りの小舟「みづは」を運行している。船長は旦那さま。