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我が国が抱える将来の憂いの一つに本テーマがある。官製相場の出口論は今夏にも述べたことだが、時を置かずして再度本誌にて取り扱うことを許されたい。それほど重い課題だと筆者は考えている。

12年前の世界的な金融危機以降、我が国は景気浮揚を狙った株高戦略に腐心した。その一つが日銀によるETF買いだ。株価の下支えを無限の如く行う様は市場に安堵感を与え、世界的な金融緩和も相まって一定以上の効果を齎すに至った。しかし、そのツケとして巨額の債務と“売れない株式”が残された。なぜ売れないのか…株価を下げる要因となるからである。日銀のETF売りは市場から安堵感を奪い、かつ先回りの売りを誘うのは間違いない。株価が下がれば日銀自身が保有するETFの評価益は瞬時に消えよう。自らを苦しめる策は肯定されまい。また、株安と連動して債券価格も暴落、借入依存の経済は急激に悪化するなど幾重にも重なった苦しみが到来する。そのトリガーを中央銀行が引くことはできようもないのだ。(出口戦略を考えるとき(2020年7月13日記)/参照:長期投資だより8月号)

筆者は、出口戦略が語られる前に静かな決着を目論んでいただろうと考えていた。つまり“貯蓄から投資へ”の大号令の下に、NISA他の税制優遇策を用い、株高に熱する市場で保有主体を個人に自然的移行させる戦略なのだろうと。同時に筆者は、それはうまくいかないだろうとも想像していた。個人投資家の腰はそれほど軽くないと。そして結果的に自然的移行は果たされず、日銀のETF保有額は35兆円程度まで膨らんでしまった。さぁ、いよいよ出口が騒がれ始めたところ、予期せぬコロナの打撃によってそれどころではなくなった。
株式市場活性化を狙い、日銀のETF買いと足並みを揃え動いたのが公的年金の運用機関GPIFだ。しかしそのGPIFもリバランス(日本株式保有比率を25%に調整する運用方針。株高になれば株式比率が上昇するので、株式を売って全体バランスを整える)を名目にこの株高局面で株式を売ったとのこと。厚労省による運用成績確保の要請があったようだ。他方の日銀は買い入れ額こそ抑えているものの、GPIFに追随できず出口戦略に水をあけられる状況だ。

本誌8月号では、京都大学川北特任教授の「政府が日銀保有のETFを買って国民にバラ撒く策」が面白いアイデアだと述べた。しかしその財源は政府にはなく、債務を重ねることも難しいだろう。また今、違うところから「日銀保有のETFを割引価格で国民に売る」という案も出てきている。しかし国民は、値下がりリスクの高いETFを持ち続けるだろうか? その時、日銀の追加の下支えはないのだ。

やはり一度、暴落を見るほかないのだろう。「市場の安定化を待って出口を探る」は、聞こえはいいが、どの策をとっても無理が残る。歪を抱えたまま延命するくらいなら、痛みを伴って健全な道を選ぶのが将来に禍根(憂い)を残さないやり方だろう。その時、長期投資家は黙って痛みを被るしかないのか? 否、長期投資家は自らの信念で暴落に臨めばよいのだ。準備の余地はまだ残されている。

【2020.11.29記】代表取締役社長 澤上 龍

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