3Dプリンタ銘柄が株式市場でバブルになったのは2013年のこと。その後、株式市場ではあまり注目されない時期が続きますが、技術的な進歩は着実に進んでいます。工作機械ではこれまでの切削加工に加えて3D造形を付与した機械が登場し、現在では研究開発の試作だけでなく、航空機やロケット、医療などの付加価値の高い分野での製造に使われています。今回は改めて3Dプリンティングについて取り上げてみたいと思います。
3Dプリンタと加工方法の変遷
3Dプリンティングによる製法はAdditive manufacturingと呼ばれ、日本語に意訳すれば「足し算的製造法」とでも言えるでしょうか。ではなぜAdditive manufacturingは革命的なのでしょう。
ひと昔前、工場で生産される素材は平らな鉄板や丸い断面のパイプが一般的でした。そのような単純な形状の部品をボルトや溶接でつなぎ合わせ、エンジンなどの複雑な機構の製品を作っていました。単純な形状の組み合わせで作らなければいけないので設計に制約が多く、理論的に最適な形状には加工することができませんでした。さらにボルトなどでの接合は重量もかさみ、溶接した箇所は耐久性の面で外部圧力に対する弱点にもなります。もちろん部品点数や加工工程が増えるとコストやリスクも上がります。
Additive manufacturingより一世代前の革命はSubtractive manufacturing、引き算式製造法です。こちらは大きな金属の塊から自動で任意の形を削り出します。この方法なら3DCADといったバーチャルで設計した図面で作成した様々な複雑形状をそのまま実現でき、ボルトや溶接での接合を必要としないため、部品点数や加工工数も減少します。しかしながら欠点もあります。それは最初に大きな塊を準備しなくてはいけないことや金属の削り出しのため多くの加工カスが発生することです。
そこに出てきたのが3Dプリンタを用いる足し算方式のAdditive manufacturingです。印刷機のようにゼロから積み上げ、形状を作り上げていくためこのように呼ばれています。最初は玩具を作るような技術でしたが、一気に成熟し、現在では強度が求められる部品、あるいは構造物の丸ごと製造を意図するようなメーカーも出てきています。
例えば、非常に意欲的ではありますが、ロケットを丸々3Dプリンティングで製造することを目論むメーカーなども存在します。ロケットは非常に部品点数が多く複雑なマシンです。削りだした鉄製のアイテムをボルトでつなぐような部品の一体成型については昔から構想されていました。しかし仮にロケット丸々を製造できるのであれば、どのようなコストメリットがあるのか。簡単には想像すらできない領域です。
住まいの3Dプリンティング
私が現在注目しているのは住まいの3Dプリンティングです。住宅購入および賃貸料金は生涯コストの中でも非常に高く、持ち家が良いか、賃貸が良いかといった話題が事あるたびになされます。リーマンショック以降、世界ではローンに縛られた生活に嫌気が差し、タイニーハウスやミニマムハウスといった、狭いですが、実用的でコストパフォーマンスの高い住居を選ぶ方も増えていると聞きます。そのような時代の変遷を踏まえれば、いずれは3Dプリンティングによる住居に対するニーズも顕在化する可能性がありそうです。
世界ではすでに3Dプリンティングを用いた住居の作成が始まっています。特に震災が少ない大陸部、かつ比較的貧しい農村地帯において、巨大な3Dプリンタによる住宅が完工しています。しかしながら実用性は十分なのでしょうか。あるベンチャー企業の例では、建物の基礎部分は耐震性を高めるために補強し、コンクリート素材も従来のコンクリートに比べて頑丈なものを使用しているようです。40平方メートル強の屋内に寝室2つ、浴室1つ、リビング、キッチンを完備し、それでいて1棟の建設費は40万円程度で済むとしています。あり合わせの木材や金属などの資材で自作した家に比べれば、耐久性もコストも十分に実用的なのではないでしょうか。また安さの理由は、建設の利便性にもあります。3Dプリンタは完成形でトレーラーによって現地に運ばれ、なんと建屋の建設時間は48時間ほどで済むようです。さすがに地震や台風の多い日本での実用性については懸念点もありますが、緊急時のプレハブなどの用途に期待できそうです。事実、震災時に作られたプレハブは非常に高額な費用がかかっているという問題点が指摘されています。日本でも一部ゼネコンが研究開発を進めており、近い将来に日本でも3Dプリンタハウスが実用化されるかもしれません。
【ファンドマネージャー 坂本 琢磨】