企業は持続的な経営を目指すべきだろうか?
どのような企業も、モノやサービスを提供することで顧客から売上代金を受け取る。その代金を仕入先や社員の給料その他経費に充て、時に地域・社会・環境活動をし、税金を納める。残った利益は株主のものだ。さて、それらの一部または全部が削られ、なくなったらどうなるか?
取引先や関連企業、社員への不払いは、携わる人や社員の経済活動を鈍らせ景気悪化の大きな要因となる。税金未納は社会インフラを杜撰なものにし、安心安全な生活の土台を奪いかねない。地域・社会・環境は言わずもがな、それらが満たされていないと企業どころか人類は生きていけない。すなわち企業の持続的経営は社会の維持発展に必須なのだ。一部の企業で持続性が欠けても経済や社会全体に与える影響は軽微じゃないか? 否、連鎖する。なぜなら給料をもらう社員が他の企業の顧客であるように、すべて繋がっているのが経済であり社会だからだ。無論、社員の給料を圧迫すると、巡り巡って自社の売上が減る可能性もある。
持続的な企業経営のために何が必要だろうか?
前章で影響を述べなかった“株主利益”。「企業は株主のものであり、企業経営者は株主利益を最大化させるのが仕事」という株主第一主義は、企業の持続性を奪いかねない。
顧客からの売上を一つのパイに見立てると分かりやすい。株主が自らのパイの取り分を多く要求するほど、他のステークホルダーの取り分が減らされる。これは“ゼロサムゲーム(足してゼロ)”と呼び、「誰かの損は誰かの得」というギャンブルと同じだ。
本来、持続的な企業経営において必要なのはゼロサムではなくプラスサムの考えだ。株主が企業の所有者としてすべての権利を主張するのではなく、企業の発展を願い、パイ自体を大きくすることに寄り添い、そして大きくなった最後の取り分を受け取ればよいだけだ。パイの巨大化は売上が増えることであり、そのために各ステークホルダーのバランスが重要だというのは、前章を逆から考えれば分かる道理である。
公益資本主義
以上は筆者が常日頃から述べていることだが、それと同じ主張を持つ人物と出会った。それが原丈人氏である。むしろ、氏の著書を以前筆者が読んだことから、知らぬうちに影響を受けていたのかもしれない。
企業のカネ余りは経営の無能と揶揄され、効率的な資金使途がないなら株主に還元せよという株主第一主義。無知にも日本はそれに倣った。そしてそれが過熱し、日本型の経営は陰を潜め、皮肉にも株価は上がった。しかし未曽有のコロナ禍で企業の資金繰りは逼迫、守るべき社員への給料が払えない状況に。
然らばと、配当原資にならない内部留保を高められる法を公益資本主義の名の下に提案しているのが氏である。では、我々は道理を多くの人に愚直に伝え、社会を皆と一緒に底から変えていこう。仕組みと意識変革、両方必要である。株式会社という発明が一部の人間に富をもたらす道具であってはいけない。より未来に役立つ仕組みに変えていかねばならない。向かうべき先は同じである。
最後に、企業が稼ぎ出す株主利益は10年で倍以上となった、配当も同様に伸びた。しかし給与はほとんど伸びていない。この事実をどうお考えか。
【2021.7.26記】代表取締役社長 澤上 龍