金融経済教育が必修化へ
2022年4月に日本の成年年齢は18歳に引下げられます。明治時代に20歳と定められてから146年ぶりの大改革です。これにより選挙権を得るだけでなく、高校生であっても一人で有効な契約をすることができるようになります。保護者の同意を得ずに締結した契約を取り消すことができるのは18歳未満であることから、自分の意思で選択・決定を行う場合には責任も生じてくることを認識しておく必要があります。
成年年齢引下げを踏まえ、高校生を対象とした金融経済教育が始まります。高校の新学習指導要領では、2022年度から公民科で金融と経済の関わりを、家庭科で資産形成を取上げる授業が本格的に行われます。資産形成の授業はライフプランニングの観点を取り入れ、家計の構造や生涯を見通した家計管理や計画、リスク管理について理解を深め、情報の収集・整理が適切にできるようになるための教育指針が含まれています。人生に必要な“お金の知識と判断力(金融リテラシー)”を身につけ、家計管理や資金を含めた将来設計を行えるようになることが金融経済教育の目的です。
国際的に見ても水準の低い日本人の金融リテラシー
サブプライムローン問題からリーマン・ショックを受けて起きた2008年の金融危機以降、金融リテラシーは国際的なサミットで取り上げられ、日本だけでなく世界的に重要な課題になっています。2019年に金融広報中央委員会が18~79歳の個人2万5千人にアンケート調査したところ、日本の金融リテラシーの水準は国際的に見ても決して高いとは言えないことが分かりました(下表参照)。特に、“複利”、“インフレ”、“分散投資”に関しては、OECD(経済協力開発機構)が行った調査では英仏独に比べて低い状態です。調査時期が異なることから厳密な比較は困難ですが、日本では“貯蓄から投資へ”の流れがなかなか進まず、また低金利環境が続いていることから、こうした項目に疎くなるのは当然のことかもしれません。
金融経済教育の実効性
同じく2019年に金融庁は人生100年時代を見据えた資産形成を促す報告書をまとめました。現在の年金制度に頼った生活設計では、定年退職後30年間夫婦で生きていくのに2千万円が不足するため、現役時代から長期積立型で国内外の商品に分散投資することを奨励し、退職金も有効活用して老後に備えるよう求めました。この観点から言えば、青年期から資産形成の知識に触れることはとても有効に思えます。しかし、大切なことは実際に行動するかどうかです。高校生が授業で株式や債券、投資信託といった資産形成が可能な金融商品の知識を得てから実行するまでには数年から十数年かかるかもしれません。一人ひとりの安定的な資産形成を実現し自立した消費者を育成したいという国の考えに則れば、この時間の溝を埋めるための施策も必要と考えます。
成年記念祝い金で資産形成の第一歩を
私見ですが、この溝を埋めるために成年年齢に達した人へ1万円の祝い金を国から支給してみてはどうかと考えます。その際、「このお金は資産形成の始めの一歩を踏出すための支援金です。経済的に安心できる将来を作りましょう」と伝えます。支給時点で使途の制約は設けませんが、金融教育を受けた後なら一定数の人が実行に移すのではないでしょうか。その後のフォローとして、資産形成への一歩を踏出した人を対象にした意識調査アンケートなどでこの制度の実効性検証を行います。また国や金融関連機関等が体験エッセーや研究報告等を賞金付きで公募し、それらを周知することが資産形成活動の醸成につながるのではないでしょうか。
資産形成インフラとしての金融機関
文部科学省の学校基本統計によれば、今年の18歳人口は112万人。今後徐々に減少し10年後には100万人を割る推計です。国は年間約100億円の予算を祝い金に割当てることになります。新成年のうち約3割が資産形成に動くと仮定して、30~33万人がそのための口座開設をすることになります。晴れて成年になれたのですからNISAの利用も可能です。しかし資金は少額の1万円。金融機関にとっては口座管理や顧客応対の費用から考えて消極的になるかもしれません。それでも将来経済的に安定するため、資産形成の一歩を踏出す人の力になりたいという金融機関はいるはずです。もちろん当社もそのひとつです。さわかみファンドで資産形成を経験してみたいと思ってくれれば、全社あげて青年層の投資行動を応援します。投資相談や当ファンドの説明、荒々しい値動きへの対処法、二歩目からの行動相談、長期的に資産形成するためのサービス(定期定額購入の「つみたてのチカラ」)提供など、未来の投資家の育成と長期投資の仲間づくりに喜んで汗を流します。そしていつか資産形成のインフラとして“さわかみファンド”が日本に必要不可欠な存在になることを願っています。
【アナリスト 大澤 眞智子】