株主優待(以下、優待)を見直す企業が増えていると聞く。外国人投資家などが得難いという公平性の観点から、優待よりも配当金に重きをおいているのだろう。しかしこの優待、公平性と表面的な議論で片づけるのは少し待つべきだ。上手く活用すれば企業価値の向上のみならず、日本の株式市場活性化に一役買うかもしれない。
優待ランキング
書店に積まれたマネー誌の表紙に違和感を覚える時期が来た。3月に限ったことではないが、とはいえ年間で最も注目されるのがこの時期だろう。
優待を金銭価値に換算、またはWEBやチケットショップなど流通市場での売却価格を確認し、株価の何%相当かを計算する。配当金を加えてもよいだろう。3月末時点でいかほどの株主還元が確定するか、考えるだけでワクワクする。しかしそこには落とし穴がある。株主還元は企業における支出であり、理論的にその分の株価は下がる。つまり企業価値の一部を取り崩して現金化(優待を調達)したものであり、投資家は何ら得しないのだ。むしろ、例えば配当金であれば税金分の複利効果を失うため、手元現金に不自由のない投資家は配当金や優待は迷惑なはずだ。
余談だが、配当金や優待、そして議決権が確定する日を“権利付最終日”という。2022年は3月29日か。仮に翌日の3月30日に全株売却しても大丈夫だ。
配当金や優待を得るために直前に株を買う? それでも大丈夫。長く応援してきた長期投資家はちょっと損な気分? それは違う。権利付最終日が近づくほどに株価はそれらの金銭価値を織り込むため、直前に株を買った投資家はその株価に配当・優待分が含まれていることになる。
問題なのは議決権だ。3月30日の“権利落ち日”に全株を売っても6月の株主総会で発言ができてしまう。もう既に株主ではない投資家がアレコレ言えてしまう制度には大きな疑問が残る。
優待の活用方法
例えば外食業やテーマパークなど最終消費者に近い企業であれば、割引券を優待として発行すればよい。優待は自社サービス等の割引か、それ以外かに分けられる。自社サービスの割引であれば、割引分だけ売上の減少はあるものの、他に大きなプラス要因も発生し得る。例えば優待と共に友人をお店に連れてき、結果的に割引以上の売上貢献をもたらす。提供するサービスは経費(原価、販管費など)であり、つまり本業の一部だ。更にそのサービスが喜ばれるなら、友人含めリピーター顧客が増えることに繋がるだろう。
他方、割引以外の優待とはクオカードなどを指す。土地の名産品を送る企業もあったが、いまなお優待の多くはクオカードだろう。受け取る投資家にとってクオカードは最も金銭に近く、換金率も高いため嬉しいはずだ。しかしその優待はおそらく企業にとって交際費として処理され節税効果はない。
然るに、優待が本業を支え加速するものと判断できるなら、積極的に行ってもよいのではないか。結果的に業績に繋がるならば、中長期の投資家は否とは言わないはずだ。
投資家が優待目当てで企業を探し、企業がそれに応える時代は終わりを迎えている。しかしそれは優待制度の終焉を指すものではなく、企業が投資家を選ぶが如く、優待の意義を確保した上で実施すればよいのだ。世界的にも珍しい株主優待制度、これを“プラスの多い模範となる制度”と化けさせることができるかどうかは、企業そして投資家に求められている。
なお、受益者の資産を運用する機関投資家は、得られる優待は可能な限り金銭に換えてファンド資産に組み込んでいる。安心されたし。
【代表取締役社長 澤上龍】