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「数字に騙されるな」とは過激なタイトルだが、ここで述べたいのは、数字の表面だけで物事を判断しては危険だということ。推移・傾向、隠れた不具合・不都合、外的要因、数字の出し手のクセ、そして受け手自身の経験値などを織り交ぜながら、数字の意味をしっかり腹落ちさせる必要があるのだ。
筆者の知る限り、数字は出し手の都合の良い方法で提示されるケースが多い。対象となる期間や比較相手、計算根拠など出し手から一方的に与えられる情報は、(数字の目的である)主張の正当性を担保するための理論武装だ。しかしそこには「承認を得たい」とか「商品を売りたい」などの理由があり、理論武装は至極当たり前のことだと考える。数字に嘘がない限り出し手に大きな問題はない。故にタイトル通り、受け手は「数字に騙されるな」となる。

比較可能な共通KPIの例

3月末は各金融機関が“比較可能な共通KPI”というものを取り纏める。このKPIを端的に言えば、年度末時点で利益が出ている受益者の割合を示すもので、100人の受益者のうち80人が1円でも儲かっていたら80%となる。ここでの不都合は、計測される前日に儲けを確定させて非受益者となった場合(全部解約するなど)、KPIの計測対象から外れてしまうことだ。
非常に優秀な運用会社があるとしよう。たっぷりと儲けた受益者全員が3月半ばに笑顔と共に資産の全額を引き出し、含み損状態の受益者だけ残ったらどうなるか。その運用会社が報告すべきKPIは0%となる。つまり受益者の全員に損をさせているという数字が示される。それを見た大衆、そしてメディアはどう思うか? その運用会社に無能の烙印を押すのではないか?

嘘から出たまこと

KPIの数字が先走り、無能だと評価されてしまった運用会社。その誤った評価により残った受益者からの解約殺到を受けてポートフォリオは崩壊、結果的に運用成績の劣化に繋がった。架空の話とは言え、無きにしも非ずだ。
逆も然り。大した成果もなしに自らを誇張し、それが大衆の期待と実弾確保に繋がって結果を出してしまうケースだ。例えとして情勢的に相応しくないかもしれないが、政治活動や戦争などには嘘も効果がありそうだ。企業やチームのリーダーシップにおいて鼓舞は必要だ。その先に梅の木があろうがなかろうが、結果に導くための方便となろう。
数字に話を戻すなら、株価こそ嘘であり“まこと”である。高い株価は有利なファイナンスに繋がり、またその高い株価が投資家の次の一手を決める材料となるならば、意味のない株価が意味をつくってしまう。

数字とは面白いものだ。デジタルで判別できる一方で、アナログ的な要素が求められる。いかに精緻な数値データを揃えたところで、解読者が無能なら間違った判断に繋がってしまう。そして、いかに胡散臭い数字を用いようと、率いる人によっては大きな結果を生み出してしまう。それらは数字に限らず、全ての事象に言えることだ。数字は虚であり真実である。目の前に見えているものは幻想であり現実である。騙されたくないが、騙された方が良い時もある。要は使い手次第、自分次第なのだ。

【代表取締役社長 澤上龍】

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