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先日、次のようなことを言う情報番組を見た。「株式投資はリスクが高いって思われますが、実はそうでもないのです。この10年の成長率を見ると、預金や債券などに比べ圧倒的なパフォーマンスです。そしてなにより、私たちの投資資金が企業の開発資金となり、その結果、企業が成長したら素晴らしいですよね。そう、株式投資は企業を応援することなのです…」というような内容だったと記憶している。

ここで二つの懸念を抱いた。まず単純なのは、「この10年の成長率を見ると~」の部分だ。確かにそうかもしれないが、この先10年も上がり続ける保証は一切ない。そしてもう一つの懸念、実は大多数の人が勘違いをしていることかもしれない。

 

一般的な株式投資では、企業にお金は行かない

そうなのだ、お金は企業に行かないのだ。この辺り、よく勘違いが起こっていると推察する。

株式投資のタイミングは大きく二つに分けることができる。まずは新株発行のタイミング。企業が資金調達をする場合、新たな株式を発行して投資家に買ってもらうことがある。この投資資金はそのまま企業へ行くため、資金調達の目的によっては企業を応援すると言えるかもしれない。しかし、一般的に行われる株式投資は証券取引所を通じて行うため、上述の新株発行とは異なる流れとなる。それを流通市場(セカンダリーマーケット)での売買という。

新車購入時の代金は自動車メーカーに行くことは誰でも知っている。それが先の新株発行だ。一方で流通市場は、既に企業から発行された株式を売主と買主とでマッチングを行う場だ。例えるなら中古車市場だ。中古のプリウスを買っても、その代金はトヨタには行かないだろう。プリウスの所有者に行くだけだ。オークション会場が証券取引所、証券会社が投資家の代わりに会場に出入りする人、そしてプリウスの出品者が株主、購入者が投資家となる。購入者の資金は出品者の元へ行き、取引所はプラットフォーム代、証券会社は仲介手数料を受け取るに過ぎない。

 

株式投資は企業をどうやって応援する?

冒頭の「株式投資は企業を応援すること」は間違いなのか? 応援すること自体は可能だ。しかし説明が間違っている。では、企業の外で行われる取引でなぜ応援になるのか?

自動車は所有者の運転の癖やメンテナンスなどで性能が大きく変わると思う。既定のスペックは変えられないが、所有者が大切に扱う自動車は良い走りを長く続けるだろう。企業も同じだ、いや所有者によってその性能(業績)は大きく異なってくる。

明日の儲けだけを考える株主であれば、企業の未来より自分の利益を最優先するだろう。企業に対し理不尽なアクションもできればその権利も持っている。お金を引き出してすぐに、さようなら(売却)もできるし、不景気突入時に“損切り”と言って株を手放し、企業を買収リスクにさらすことだって気にもしない。

他方で企業を理解し、その未来を共に歩もうとする長期投資は応援と言えよう。企業の未来への道のりを支え、難しい局面でも企業を信じ株式を手放さない。未来の約束など誰にもできないが、投資家が企業を支えるか否かで実現の可能性はずいぶんと異なってくるはずだ。

[2022.6.21記] 【代表取締役社長 澤上 龍】

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