世の中は様々な情報が錯綜し、株式市場ではそれらが複雑に絡み合いながら日々取引が行われております。そこでは市場参加者は何を考え、どのような行動をしているのでしょうか。
伝統的な経済学では「人は常に理に適った行動をし、自分の利益を最大化する合理的な選択をする」と考えられております。市場は常に効率的であり、すべての利用可能な情報が完全に市場価格に反映されていると仮定する“ 効率的市場仮説” などはその典型例です。しかし実際のところ、人はそんなに常に合理的な選択ができるのでしょうか。伝統的経済学が前提とする人間など、本当にいるのでしょうか。
そこで私が着目したのが「行動経済学」です。行動経済学とは、経済学と心理学の視点を組み合わせ、より現実に即して人間の行動を解明することを研究する学術分野です。経済学の数理モデルに心理学的に観察された事実を取り入れていく研究手法を用い、人が利益を得ようとするときどう行動するかが主な研究対象で、マーケティングなどにも応用されています。まずは行動経済学の代表的な理論を2つご紹介します。
プロスペクト理論
「損をしたくない」という気持ちの方が「得をしたい」よりも影響度が大きい、という理論です。損失回避の法則とも言われ、行動経済学の基礎となる理論でもあります。
下落相場に直面したとき「どこまで下げるのか、これ以上のマイナスは嫌だ」と不安になる心理などはこれに該当するでしょう。逆に強烈な上昇相場に直面したときに「ここで買わないと損だ」と感じて、高値にもかかわらず飛びついてしまうようなときも同様かもしれません。
サンクコスト効果
英語表記は「sunk cost」で、直訳すると「コスト(費用)をサンク(沈む・失う)」ことから「埋没費用」とも呼ばれます。人がそれまでにかけた費用や時間を無駄にしたくな
い、もったいないと思う心理に係わる理論です。
信用取引で追証が発生した際に手仕舞いせず追加担保を差し入れてしまうときの心理や、企業でいえば赤字の事業部門からなかなか撤退できない状態などはまさにこれでしょう。
他にも行動経済学の理論はまだ沢山ございますので、いろいろ調べてみると面白いと思います。行動経済学は学術分野としては比較的新しく、ときには異端扱いされてしまうような発展途上にあります。今後、行動経済学がどのように進化していくのか注目したいのですが、結局のところはこれをどう捉え、向き合っていくかが大切なのではないでしょうか。
私はこの行動経済学を、他人の行動を先読みして出し抜くために利用したら “ 投機” になってしまうのではないかと思います。その一方で、提唱する様々な理論を正しく理解すれば、自身がその状態に陥っていないかどうか、己を律するための指針となり得るものと考えております。「人の振り見て我が振り直せ」の諺通り、自分自身を客観的に省みるため、これからも行動経済学に向き合いたいと思います。
【トレーダー 藤沼 幸夫】