■お金の教育が始まった
2022年4月から、学習指導要領では高等学校の家庭科や公民科で“資産形成”“資産運用”の視点が織り込まれた。いわゆる“金融教育”というものが始まった。
当時、各種メディアもこの新しい動きを頻繁に取り上げ、世間の注目が集まったのは記憶に新しい。あれから一年。取り組み自体の成果は長い目で見守ることとしつつ、一年たった今、改めてこの「お金の教育」というものについて自分なりに考えてみたい。
お金の教育とは?
若者たちは何を学ぶべきか?
そもそもお金についての正しい教育、正しい知識とは何なのだろう? 皆さんはどう思うだろう? お金に関する正しい知識とは、消費者としてのお金の知識でも投資の知識でもなく、または財務や会計の知識でもない。本当に必要な知識とは、“お金を生み出す”ために必要な知識ではなかろうか。
いくら様々な知識を蓄えたところで、この生み出す力なくしては、結局はお金を受け取れない。そうなれば自立して生きていくのも大変だ。未来ある若者たちにはどんな教育が必要なのだろう? せっかくの機会だ。私が考える理想の“お金”の教育を提唱してみたい。
■前提を変えて未来をつくろう
現在、学生たちが勤労することに関しては様々な意見もあると思うが、前提を変え、むしろ積極的に“働く”ことを促してみてはどうか? そう、こんな具合に。
原則として、全国の中学生には毎年2〜4週間程度の企業へのインターンシップを教育課程として義務付ける。製造業、接客業、飲食業、デザイン、プログラミング等々、選択は学生の意思に基づいて行われる。
当然、賃金は仕事の価値に対して適正に支給される。無論、学生たちには高度な技術を求めることは難しいが、学生と企業側の創意と工夫で仕事はつくってもらおう。むしろ若い学生たちは、新しい時代に向けて面白い革新的なアイデアをもっているかもしれない。また、これから日本はさらに労働人口が不足する。可能性ある人材と早期に接点をもつことは企業にとっても大きなメリットだ。
このプロセスを通して学生たちは大人として扱われ、“教わる”のではなく“考える”“行動する”を経験することになる。そして、顧客の満足があってこそ、お金が動くという至極当たり前の真実を心と体で感じてもらおう。
高校に進学した場合でも卒業までこの制度は継続するが、義務ではなく機会として設計し、より本人の意思を尊重させよう。そして意思とアイデアがある学生には、インターンシップを超えて、企業が正式に社員としてのオファーを出せる仕組みにしてしまおう。アルバイト禁止だとか、若いから、学生だから、という概念は捨て去ろう。生み出された価値に対して然るべき待遇を支払う。1,000万円プレーヤーが生まれても良い。むしろそんな人材は国の宝だ。もちろん学業との両立は必要だが、夢や目標のある学生の方が、実際は勉強もできたりする。全ては意思の問題だ。
そして、この仕組みを国家プロジェクトとして推進し、学校と企業双方の協力を強力に仰ぎたい。若者たちが卓上の議論ではなく、大人たちとお金を生み出す生産者として社会に参加することの価値はきっと小さくはない。
新しい時代の変化はとても速い。そこに若者たちが新しいアイデアを持ち込める機会は大きく存在するだろう。お金の教育を“教室”ではなく、“働く”ことを軸に考えてみるのはどうだろうか? そして、このことは日本が世界に示すことのできる成熟国家の一つのモデルケースになれるかもしれない。
■新しい機会を
最後になるが、「若者たちに機会を」との想いから、さわかみ投信として投資信託の分野において、若者の参加を促すプロジェクトを開発している。準備が整い次第の発表となるが、いつの時代においても、未来を受け継ぐのはいつも若者であり、そんな若者たちが面白い機会や体験に出会えることをデザインしていくのも大人の責任である。それも一つの教育のあり方ではなかろうか。
【取締役戦略室長 熊谷 幹樹】