先日の投資哲学腹落ち会(仮称)にて、「株主の圧力によって企業の意思表示が弱まっているのでは?」という話が出た。筆者は「むしろ世論が企業のみならず株主にも影響を与えているのでは?」と意見を差し込んだ。つまり、「株主に対する責任を果たすにはROEはXX%以上、●●は必須、◆◆も意識せよ」といった海外の常識や学者の理屈がメディアを通し、市場の“べき論”として形成されていることへの懸念だ。
それら“べき論”には一理あるものの、しかし企業は多種多様。業種、ステージ、状況など一つとして同じものはない。“べき論”を企業が自らの努力目標と設定するのは是であるが、しかし企業をそんなもので評価できるわけがない。ましてや投資判断は“べき論”では下さない。
株主・投資家に対して素直になろう
株主・投資家も多種多様だ。期間の長短、軸となる通貨、思惑、背景にあるポートフォリオ、何もかも違う。そのような十人十色の株主・投資家全員を満足させるのは不可能だ。八方美人に取り繕っても一時しのぎ。必ず時の審判が下り、誰からも見捨てられる結果を迎える。
最初から覚悟を決めて「当社はこういった経営方針で邁進します。結果が出るまでお時間を頂戴しますが、株主・投資家の皆さん、ぜひご理解をお願いします」と言い切ってしまった方がいい。株主・投資家はその方針に納得できなければ投資しないという選択肢を持てる。要は、企業が株主・投資家を選ぶ意思を持つことだ。投資する側とされる側の双方が率直な意見を用い、ベストマッチングを探るのが“べき論”ではなかろうか。
同僚に対して素直になろう
逆パワハラが問題になっている。ハラスメントを過剰意識する風潮の産物だろうか、それとも、指導方法を教わらなかった中堅が大勢を占めるようになった時代性だろうか。
「どうせ解雇できない」と、逆パワハラに高を括っているならば、その社員は長くはもたない。重用されずに疎外感を味わうか、その社員が原因で企業自体が衰退するかのどちらかだ。では物が言えない上司に非はないのか? ある。コミュニケーション不足云々という短絡的なことではない。相手を配慮し遠回しな表現をするのではなく、率直に言うことは愛情だと考え、信頼関係を構築することが重要だ。
顧客・社会に対して素直になろう
「良いモノは黙っていても売れる」は間違いだ。悪いモノを口八丁で売り捌くことは肯定できないが、良いモノであれ日の目を見なければ存在しないに等しい。日本にはそういうモノが多いのではないか。
海外では、良いモノを上手に集めて“伝える力”で業績を上げてしまう企業が多々ある。「あの製品に使われている部品は日本製!」は負け惜しみに聞こえる。無論、最終製品の担い手か否かはあろうが。ただ、かつての日本企業は、新しい生活スタイルの提案と共に世界にモノを売り捌く力があったではないか。減退してしまったその力を意識して磨く必要があろう。
伝えることの重さをテーマに、あれこれ好きなことを“伝え”てみた。日本は“伝える”ことに臆する文化がある。“奥ゆかしさ”はとても大切だが、国際社会で生き抜くためには、必要に応じストレート・トーキングも大切だと思う。
【2023.3.16記】代表取締役社長 澤上 龍