私たちにとって、お金でモノやサービスが手に入るのは当たり前のことかもしれません。しかし“ お米や布” で物々交換をしていた時代では、それらを手に入れることは今よりもずっと重みがあったことでしょう。現在の便利な社会は、過去の人たちが未来を夢見て、お金や時間、労力を投じてきた結果です。そう考えると「お金で何かを買える」世の中に生きていることは、非常に価値があることだと言えるのではないでしょうか。
マグロは高くない?
モノとお金を交換するのが、買い物です。買い物をする時、私たちは自身の基準を元に価値を判断します。あるとき、私は自分の価値基準を覆されるような体験をしました。
それは、友人たちとお寿司のネタについて話をしていた時のことです。マグロの大トロは高いとか、赤身は安いといった話題で盛り上がっていました。すると友人の一人が「マグロは高くない。自分でマグロを獲りに行くことを考えたら、どう考えたって安いはずだ」と言ったのです。その発想は、私にとって目から鱗でした。
私はマグロを釣ることができませんし、当然捌くこともできません。マグロを獲ってきて!と頼める友人もいません。そう考えると、確かにそれなりのお金を払っても高くないのかも知れない、と初めて思いました。
スーパーの握り寿司から考える
スーパーで握り寿司を買ってきて考察してみました。980 円という金額は、自分としては奮発した方です。この握り寿司を自分で一から作ろうとしたら、いったいどれだけの労力がかかるでしょうか。
寿司を作るには、マグロやハマチ、ホタテなどの食材が必要です。漁に行く様子や、生産の過程などをインターネットで検索してみました。マグロ漁の多くは遠洋漁業で、半年から1年近くも漁に出ます。マグロは養殖も行われていますが、育てるにも時間がかかり、3 ~ 4 年かけて出荷されるのが一般的です。他にもハマチ漁、ホタテ養殖、エビ漁、海苔の養殖、養鶏、稲作、塩作りなどを調べて感じたのは、作業自体の大変さと、自然相手の難しさでした。
もちろん、食材を獲るだけでは握り寿司は完成しません。食材を安全に運ぶためには、様々な機械や乗り物、道路が必要です。そして商品として出荷するためには、加工や調理をしなくてはなりません。これだけ手間をかけた握り寿司が、980 円というお金を払うだけで手に入る。自分は何も苦労せずにです! それらが分かった後の私には、980 円という金額はあまりにも安く感じられました。
私たちの消費が社会を創る
スーパーで握り寿司を買えるのは、お金を持っているからではなくて、たくさんの人が働いているから。インフラが整った安全な世の中であるから。さらに言うなら過去に生きた人々が労働や時間、お金を投資して現代社会を形成してきたから。そして、次の社会を作っていくのは私たち自身です。
私たち自身が未来のために働くのはもちろんですが、何に、どんなふうにお金を使うのか?がとても重要です。なぜならば、私たちの消費したお金によって次の投資が生まれたり、人々の行動選択が変わったりするからです。
だからこそ、お金を使うときは「どんな社会をつくっていきたいのか」を考えることが重要だと、私は考えています。モノの値段が高い、安いではなく、その値段の裏に何があるのかを想像し、お金を使うこと。これは誰もができる未来への投資の1つではないでしょうか。
【執筆者:林野 暁子(直販部)】