「貯蓄から投資へ」のスローガンに世の中が投資について非常に騒いでいるのですが、どこから株式投資を始めたらよいのか、多くの人が悩んでいることと思います。私はよく、米国著名投資家のピーター・リンチ氏のエピソードを参考にしています。彼はニューヨークの証券会社が密集するウォール街の機関投資家よりも個人投資家の方が社会ニーズや企業戦略をより理解できるという事例を紹介しています。
例えば、ダンキンドーナツショップのチェーン店の話。創業のエピソードとして、工場や建築業界の労働者がドーナツとコーヒーでの休憩で癒されている現象に着目。この二つのアイテムを中心にマサチューセッツ州で開業し全米展開して成功しました。リンチ氏は、このような企業の成長ストーリーの種に出会えるのは一般消費者のほうがデスクワークしている証券マンよりも早いと力説しています。
さらに面白い話として、ホテルチェーンのホリデー・インに対する、競合企業「ラ・キンタ・モーター・イン」の戦い方の逸話を挙げています。同ホテルチェーンは、身近な視点と丁寧な顧客分析によって、ヒューストンとダラスでホリデー・インの顧客を奪うことに成功しました。ラ・キンタ社は、通常のホテルにある結婚式場やレストランなどの無駄な部分を省いてコストを削減。しかもホテルレストランをなくす代わりに、デニーズのような24時間営業のファミレスの隣に出店することで、顧客が空腹にならないように配慮しました。この手法によって3割程度のコスト削減となり宿泊費を安くすることができたそうです。私がビジネス目的で宿泊するなら安いホテルを選びます。
また、ラ・キンタ社は120室程度(競合の250室に対して)の自社規格型ホテルを多数の施設で展開し、投下コストを下げて倒産リスクも減らしました。120室程度のホテルだと、リタイヤした夫婦が住居併用のホテルマネージャーになれるというメリットもあったのです。リンチ氏が強調しているのは、このようなホテル業界に投資したケースの知見として、一般の人でも観察力を働かせると街中で貴重なヒントを得ることができるという点でした。例えば日本でも、工事現場の壁には「建設業の許可票」を掲示することが義務付けられていますから、街中を歩きながら新規競合の状況を把握することができるのです。目的を持って街をキョロキョロしていると、おや? と思えるヒントが転がっているのです。
私はある流通チェーン店の調査にリンチ氏からのヒントを活用しました。いくつかの店舗を訪れ品数が絞り込まれていることに気づき、大量購入によって発生するコスト削減の程度を推測しました。また周辺地域でのヒヤリングによって地元の雇用にも積極的で、まとまった休暇がとれて社員にも優しく離職率が低いことを確認しました。ディナーロールパン、ナッツ、コーヒーなどの食料品やゴルフ用品まで開発していてコスパ最強の製品群に私は虜になりました。一個人の消費者の目線で確認したうえで、この流通チェーンのビジネスモデルが10年先にもたらす企業価値の高まりについてイマージネーション(推)を飛ばしました。並行して今後10年間分の予測財務諸表を作成しながらロジック(論)を固めて社内提案書を作成し社内会議で提案しました。当該流通企業は、現在ファンドの組入企業となりパフォーマンスに貢献しております。担当者としてワクワクしながら企業価値の高まりを観察しています。
【運用調査部 アナリスト 大岩 賢】