自動車業界について
自動車業界は、電気自動車(以下、BEVと表記)が世界的なトレンドとなっていますが、内燃機関の需要はまだまだ高いというのが現状です。2022年のBEVの保有台数比率はわずか1~2%です。米調査会社のS&P Global Mobilityが出した2040年の予測は25%ほどです。自動車全体の販売台数は今後も増え続けると見込まれているため、BEVの比率が上がったとしても、内燃機関の保有台数は微減するか横ばいで推移すると予想されます。つまり今後、内燃機関の需要が急激に減るということは考えづらいのです。内燃機関向けの自動車部品をメイン事業としている会社は今後、どのように時代の変化に対応していくのでしょうか。今回はある自動車部品会社の事例と筆者の考察を紹介します。
現状理解と将来の企業価値を高めていくための施策
筆者が取り上げる自動車部品会社は、内燃機関向けの部品を主力商品としており、利益率も高いです。この会社の強みはセラミックの素材開発・成形技術にあります。セラミックは耐熱性や耐摩耗性などの優れた特性を持ち、自動車部品では負荷のかかるエンジンの部品などに適しています。また同社は金属とセラミックを接合させる技術も優れており、複雑な形状の部品もつくることができます。このような技術力と世界の幅広い販売網によって、内燃機関向けの部品の市場で高いシェアを獲得しています。内燃機関の需要は少なくとも今後10~15年ほどは急激に減らないと考えており、同社はその間に、安定した利益を確保することができると考えます。
しかし将来の企業成長を予測するという観点では、それだけでは不十分です。同社は自動車部品だけではなくセラミックの会社でもある点を忘れてはなりません。セラミック技術は自動車の内燃機関部品だけでなく、BEV関連のセラミックベアリングボールや、セラミックコンデンサ、モーターに使われる積層磁石などBEVの分野にも応用できるのです。さらに緻密な温度管理を必要とする半導体装置の部品にもセラミックの成形技術は大いに貢献します。半導体装置の部品については、セラミックの積層技術によって他社との差別化もなされており、きちんと利益を出せている状態で将来の成長期待を持てる事業です。同社は現在の自動車部品で稼いだ資金を、上記の新たな事業への成長領域に再投資することで企業価値の向上に努めています。本業であるセラミックの技術を生かして世の中の変化に対応しているのです。
最後に
当該企業は、セラミック会社として私たちに将来への期待やワクワク感を持たせてくれます。セラミックという同社の強みの本質を理解したうえで将来成長を思い描くことが長期投資の鍵となります。同社が持つセラミック製造技術のノウハウは、内燃機関の自動車部品以外にもBEVに使われるモーターなどの部品や、半導体装置の重要な部品などの量産に応用されていく可能性を十分に秘めていると考えます。さらには内燃機関事業で今まで築いてきた世界の販売ネットワークを活用することで、内燃機関以外の製品も広がっていくとすれば、企業価値は高まっていくでしょう。目の前はBEV関連の情報が氾濫していますが、それに振り回されることなく将来成長の推と論を繰り返しながら長期的な応援投資を継続します。
【運用調査部 アナリスト 森實 潤】