人間は未来へむけて変化をおこせる
日本の“ド”がつくほどの田舎で生まれ育った私は、小学3年生の頃、野生の熊に追いかけられた経験がある。遠くから黒い大きな物体が猛スピードで追いかけてきた。振り返ることなく必死に逃げ何とか助かった。あの恐怖は今でも忘れやしない。当時、大人たちは「熊なんて出るわけないさ」と誰も信じてくれなかった。
今なら大人たちも信じてくれるだろう。近年、全国各地での熊の出現は日々のニュースで報じられている。温暖化や環境の変化により、栄養を身体に充分蓄えられず、冬眠できずに街へ繰り出すのだ。
環境の変化により行動変容が必要なのは決して熊だけの話ではない。人間だって同じこと。だが、重要なことは、人間は熊とは違い“変化を強いられる”だけではなく、“変化をつくってもいける”ということだ。
地方こそ長期投資を
かつて、この日本には世界が羨む経済成長を長期に亘り謳歌した時代があった。国民は若かった。皆一所懸命働き、皆旺盛に消費した。国全体の経済成長と共に、国民の収入は年を経るごとに増加していった。輝かしい栄光の時代だ。
さりながら今日はそうではない。この国は老いた。人口も今後さらに減っていく。となれば消費も減り、経済の縮小は不可避の状態だ。とりわけ地方経済の衰退は顕著だ。経済が縮小すれば、かつてのように年々増加する収入を期待するのも現実的ではない。さて私たちはこの現実に対してどんな変化をつくっていけるだろう?
ここで提案したいのがやはり長期投資なのだ。そして地方に住む人こそ長期投資家として未来に向けて行動すべきだと訴えたい。
そこでさわかみ投信もしっかりとお手伝いさせていただきたい。何を隠そう、さわかみファンドの投資先企業とは、未来の社会、私たちの生活において必要不可欠な企業である。そしてその多くは世界で活躍するグローバル企業だ。仮に日本が衰退しても世界は別だ。世界全体では人口は未だ増加傾向であり、あらゆる消費も元気に存在する。そんな世界の経済成長の波に乗れる企業ならば、事業成長と共に株価の長期的な成長(リターン)も期待できる。
そして忘れるなかれ、この投資リターン(例えば100万円の投資収益)は東京等の首都圏で生活する人と、地方で生活する人とでも全く同じ100万円だということだ。となれば、食費や賃料など生活コストが相対的に低い地方の方がより多くのお金が手元に残るだろう。当たり前の話だが、紛れもない事実だ。
未来は選択できる
日本の近代化とは都市部への人口集中の歴史であり、その流れは今でも変わらない。だが、コロナ禍は私たちに意外な副産物をもたらしてくれた。それは遠隔でも“結構働けてしまう”という真実だ。
その上でこんな未来を選択してみてはどうだろう。想像してみよう。現在の仕事を継続しながら、都市部から地方へ移住しオンライン勤務に大転換してみる。あるいは現在地方で勤務する人は、現在の本業に加え、オンラインでの副業に挑戦してみる。そして収入の一部に、投資を通じて世界経済の中で働いてもらうのだ。そうなれば、衰退する地方経済においても、しっかりと、しかも“都会以上”の経済基盤の構築も不可能ではない。
ところで地方の本質的な価値とは何だろう? 地方には、澄んだ水、薫る風、採れたての山・海・大地の幸がある。大都会では決して味わえない豊かさがそこには存在している。遠隔でも働ける今、そんな豊かさの追求もより促進されていくだろう。より多くの現役層が地方で生活し、地方で消費してくれれば、地方経済にも強い追い風となる。
今日、日本全体の高齢化や人口減少は避けられない現実である。だが、国民一人一人がこれからの未来をどう選択していくのか、豊かさをどうアップデートしていくのかを考えた時、テクノロジーと長期投資がもたらしてくれる新しい機会は決して小さくはない。
地方創生を⻑期投資から始めてみようではないか。私たちは未来を選択できるのだ。
【取締役 戦略室長 熊谷 幹樹】