日本はかねてより“ モノづくり大国” と言われてきました。しかしその日本を代表するような企業から、品質不正のニュースがたびたび起こっています。このような問題を起こしてしまうと、企業はマスコミに叩かれるばかりでなく、顧客を始めとした関係者に迷惑をかけ、型式の取り消しや賠償問題に発展することもあます。それにも関わらず、まるで年中行事のように収束する気配がありません。
不正行為への心理的ハードル
世の中に起きている品質不正において、中には悪質で組織ぐるみの全く弁明の余地もないものもありますが、多くの場合、真面目に職務を遂行しようとして起きてしまったものがほとんどです。
まず、品質不正を起こしてしまう主な動機は、「納期を守るため」「歩留を上げるため」ということです。そういった組織の目標達成への強いプレッシャーに負けて不正になってしまうのです。何も個人の利得のためでなく、組織への忠誠心から真面目な社員が品質不正に手を染めてしまうという点は非常に心苦しいところではあります。しかし、逆に個人利得のためではない、というところが不正行為への心理的ハードルを低くしてしまっているのです。また周囲から「昔から行っている」「これまで顧客からクレームを受けたことがない」と聞くと、よりハードルが低くなります。
不正を見抜くことは難しい
また業務が社内外基準・手続きに則っているかを監査する制度は多くの企業で行われていますが、検査作業の手順は、様々な法律・顧客との取決め・装置の特性・社内基準等を咀嚼して定められたもので、どんな優秀な監査員でも不正を見抜くことは難しいという現実があります。検査に携わる人も問題と感じれば上司に連絡はしているものの、企業組織は開発や営業が強く、生産はその下、検査はさらにその下という暗黙的な階層構造にあり、声を出しても途中で消されてしまうという状況もしばしばです。そして現場の人の内部告発によって、突然表沙汰になるわけです。
膿を出し切る
品質不正問題が出たら、内外への速やかな対応は当然ですが、忘れてならないのはこの際に膿を出し切ることです。何もしなければ数年後また同じような事を繰り返し、企業の信用を著しく低下させることになります。まず企業のトップが直接指揮を執って聞き取り調査することから始めます。この際に表に出る新たな問題について、周囲も批判するだけでなく「よく言ってくれた」と称賛・応援する態度も必要です。再発防止には、新しいルール作りやツール等も重要ですが、何よりも①経営者の考え方を確立し従業員に浸透させる(必要により経営戦略を見直す)ことと、②コミュニケーションを取りやすい人間関係を構築する(顧客より上司が怖い組織は不正の温床)ことであると考えます。
投資家はどうあるべきか
もしファンドで投資している企業がこのような事件を起こしてしまったらどうするのか? さわかみ投信として、不正をする企業を応援したいなどということは決してありません。しかし事件が発生しマスコミから糾弾されて株が大きく売り込まれている時期に一緒に売却するのが唯一の行動なのでしょうか。実際の判断はケースバイケースであり、内容や再発の可能性を吟味して判断することになります。事情が複雑な場合、一旦売却して、事情が明らかになった際に改めて再投資を考えても良いでしょう。我々投資家には、企業を短期の利益追求に追い込まないよう、適切な対話を重ねながら成長を応援していくという態度も必要だと思います。
【運用調査部 アナリスト 田中 和則】