この5月から、心理学者の櫃割 仁平(ひつわり じんぺい)さんがさわかみ投信の研究顧問に就任しました。いったいなぜ、心理学者が投資会社の顧問に…?と思われるかもしれません。
でも実は心理学と投資には、「曖昧性」という共通項があります。
心理学では“人の心”という曖昧なモノを扱います。また“未来 ”を見据えて行う投資も、常に曖昧さと隣り合わせです。
曖昧性はともすれば不安定とか不確実といったネガティブなイメージを持たれがちですが、このコラムではその可能性と面白さを皆さまと探究していければと思います。
無名の大学院生がさわかみ投信で講演
2024年3月7日、私はとてもドキドキ、というよりはやや不安な気持ちで京都から東京に向かっていました。28歳、投資のことはあまり分からない心理学専攻の大学院生が、社長を含むさわかみ投信の皆さまの前で講演をすることになっていたのです。講演タイトルは「俳句を題材に『美しい』と感じる人のこころに迫る」。ここまで聞いても、まだ自分が講演を行った理由、そしてここでコラムを執筆している理由が分かりませんよね。
「曖昧さ」に親和性を感じるさわかみ投信?
自己紹介がまだでした。櫃割 仁平 ( ひつわり じんぺい) と申します。
2024年3月に京都大学で博士号 (教育学) を取得し、現在は、ドイツのハンブルクにあります HelmutSchmidt Universityという小さな大学でポスドク研究員をしています。専門は認知心理学と呼ばれる心理学の一領域で、特に「人が何に美を感じるか、美とはどういう感情か」といったことを研究しています。
大学院の間は特にその題材を世界最短の詩「俳句」に絞り、研究を行っていました。その過程で、学術クラウドファンディング “academist”に挑戦し、さわかみ投信がスポンサーを務める企業賞をいただいたことがご縁のはじまりでした ( 研究者もクラウドファンディングを利用して自らの力で研究費を集め、サポーターとともに研究を加速させる時代になりつつあり、私のプロジェクトも現在進行形です )。
さわかみ投信での講演会では、その俳句と美に関するこれまで行ってきた研究についてお話しました。俳句は17音という情報量の少なさから、常にある一定の曖昧性を持つと言われています。曖昧なままでも美しいと感じることができるのか、曖昧の中にも色々な種類があるのではないか、といった内容でした。あまりにニッチ過ぎる話のため「大丈夫かな…」と思っていたのですが、さわかみ投信の皆さまから次々と質問やコメントが寄せられ、特に投資と曖昧性に繋がる何かを感じてくださる方が多かったように思います。こんなにニッチ過ぎる話が刺さるのは、さわかみ投信の皆さま一人ひとりが尖る何かを持っているからではないかと今では思っています。
そんな思いもよらぬ親和性からさらに進み、取締役の熊谷さんから「共同研究やりましょう!」とお声をかけていただきました。懇親会の場だったこともあり、最初は冗談かなと思っておりましたが、その後すぐに熊谷さんからメッセージが届き、とんとん拍子で研究顧問に就任をさせていただきました。
テーマは「曖昧」、でも解像度を上げる心理学
上述してきたように、私の大きな研究キーワードは「曖昧性」です。
しかし、心理学、科学の営みそれ自体は少し様子が違っています。というのも、曖昧な概念を切り分け解像度を上げたり、曖昧な言葉を排して論文を書いたりすることが私の仕事だからです。その矛盾するような状況をどのように考えているのか、そしてこのコラムで何を皆さまと共有していきたいかを最後に書かせていただきます。
まず、どんなに科学が進んでも、この世界から曖昧性がなくなることはありません。未来ももちろん曖昧で、その中で意思決定をし、行動を起こしていく必要があります。一方で、その
曖昧なものを捉える人、自分自身は変わっていくことができます。心理学の専門用語では「曖昧さ耐性」や「ネガティブケイパビリティ」と言いますが、曖昧なモノやコトに出会った時の態度や心理反応は人それぞれで個人差があることが知られています。曖昧性を拒否する人がいる一方で、それを楽しみ、生活の糧にする人もいるということです。
私は、心理学という学問を通して、この曖昧さ耐性という概念の解像度を上げ、ひいては、曖昧性を楽しむ人が増えるようなことができたらと考えています。皆さまにもそんな研究の一端をご紹介しながら (もちろん自分以外の研究も)、世界の見え方が少し変わるかもしれないコラムを書いていきたいと思います。
曖昧な未来に投資する皆さまの参考になれば嬉しいです!
【研究顧問 櫃割 仁平】