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米国市場を見ていると、“ ニュー・エコノミー” なる論がITバブル崩壊と共に消えていった過去を思い出す。オールド・エコノミーと対比するニュー・エコノミー、その顛末は次の通り。

1990年代後半、IT 技術の発展でサプライチェーンのような「生産~在庫~販売」の最適管理が可能となった。その結果、見込生産~過剰在庫などのロスが生み出す景気循環(キチン・サイクル)が消滅すると考えられた。しかし直後に起きたIT バブル崩壊により、90 年代に続いた景気拡大が終焉、この論理は間違いだったと忘れ去られた。

実際のところ、在庫に起因する景気循環はIT により緩和されたものの、設備投資に起因するもの(ジュグラー・サイクル)を含め景気循環は確実に存在している。ただし足元の米国成長株の躍進を見ると、果たして景気後退局面は来るのかと疑ってしまう。景気の波が消え、インフレを抑制しつつ永久的に成長が続くとも誤解されたニュー・エコノミー論だが、米国はいよいよ景気循環を克服し永遠の繁栄を手に入れたのだろうか。
 

AI はニュー・エコノミー論を証明するか

自己学習を果たすAI はいずれ人類から労働すら奪ってしまう。そうした期待と懸念が生まれるほどに、AI は世界中を巻き込みながら成長を続けている。かつてのITへの興奮のように、またはそれ以上に。ゲーム・チェンジの域を超えて人類存亡レベルの話題まで飛び出すほどだ。約20 年後に迫ったシンギュラリティの先には何があるのだろう。

AI が世界中のあらゆる産業に組み込まれていくことは間違いない。人間の非合理性を隅々まで排除し、完全無欠の生産・供給体制を構築すべく進化を続けていく。ゆえにAI、そしてAI を中心とする産業の成長は疑いようもない。しかし、だからといってそれが景気循環を奪うには至らないはずだ。経済は需要と供給が合致するもの、つまり紙の表と裏の関係である。その片面だけが直線的に、または指数関数的に拡大するなど考え難い。人類には夢も欲もある。前進する欲もあれば、停滞する欲もある。ある人が前を向き、別のある人は横を向くかもしれない。それらの総和が需要である。紙のもう片面はわがままなのだ。

昨今のAI および周辺産業は国家戦略的に多額の補助を受けて設備投資に邁進している。産業収益が下駄を履いており、その下駄によって過剰設備になる恐れもあろう。その時、現行の需給バランスが崩れて価格も大きく変動する。全人類の生活が完全無欠なAI の管理下に置かれない限り。
 

永遠などない

ニュー・エコノミー論は、ペンシルベニア大学の名誉教授に言わせれば「好反応に対する『条件反射』に過ぎない」となる。すなわち足元の好調が見せる条件反射が「AI に携わる企業の牽引が米国株式市場に永遠の繁栄をもたらす…したがって米国成長株またはインデックスファンドを買っておけば大丈夫」だとすると、IT バブル崩壊の再来もあり得るかもしれない。

今後、景気循環の間隔や振れ幅は変わる可能性はあるだろうが、しかし人類が営みを続ける限り、そしてそこに個々の欲や理想がある限り「歴史は繰り返す」ものだ。
「This time is different」では危うい。

 

【2024.6.6記】代表取締役社長 澤上 龍

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